1-2.契約者たち -covenanter-
D-PAIN日本本部東京部所。
都会の中心と呼ばれる都市から少しだけ離れた場所にそれはある。
地下二階から地上は七階までのL字型をしたビルであり、基本的には契約犯罪に関する手続き、捜査、取締、確保した犯罪者の一時的な拘束など、全ての機能がここに集約されている、日本にある数少ない悪魔に関する公的機関であった。
その二階の一室。所長室でD-PAIN日本支部のボスたるリチャード・マクレディは革張りの椅子に座り、自慢のヒゲをその指で遊ばせながらノートパソコンを眺めていた。
ヒゲと言っても、人間のあご周りに生えるヒゲではなく、猫の鼻横から長く生える “植毛”、いわゆる猫ヒゲと呼ばれるものだ。
リチャードは首から上が完全に猫科の相貌をしていた。
正確には黒豹の顔、だ。
これこそが彼の契約者としての能力なのだが、何故戦闘時以外である常日頃から能力を行使して黒豹と化しているかは不明だ。
そして、彼の素顔もまた誰も見たことがなく不明だった。
決して素顔を見せないボス──と表現すれば不審極まりないが、このスーツを着た二足歩行の黒猫という容姿は見る人にキャラクター感というか一種の人懐っこさを感じさせるようで、本人の人当たりの良さも相まって部下からは慕われていた。
「もう一回、二人のパーソナリティを確認しておこうかな」
そのリチャードがノートパソコンのディスプレイに表示されていた今回の報告書に目を通し終わると、所長用の机を挟んで対面に立っている補佐役の村瀬早苗に声をかけた。
村瀬は眼鏡にパンツスーツという、いかにも役人といった雰囲気をもつ知的な女性だ。
村瀬は自身が手に持っているタブレット端末からエージェントメンバーが記録されている一覧を表示させ読み上げる。
「見習いエージェント六藤陽菜(むとうひな)、十七歳。エージェント六藤小夜の実の妹です。契約悪魔は “バエル” 。外側から破壊不可能なシャボン玉を出す “使役型” の能力。外側からの衝撃にはほぼ無敵なので防御面での性能は高いですが、反面、内側からの刺激では容易に割れてしまうので、犯罪者をシャボン玉の中に閉じ込める。というような使い方はできないようです。また、その性質から攻撃手段に乏しく、使い所が難しい能力と言えますね」
「……」
「同じく見習いエージェント百地桃也(ももちとうや)、十七歳。幼い頃交通事故で右手を大怪我し、今も後遺症が残っています。また、その際両親を失っており、以降は家族ぐるみで親交のあった六藤家に引き取られ陽菜・小夜姉妹とは家族同然に暮らしています。契約悪魔は “アラガミ” 。契約者である百地桃也の右腕に力を与える “憑依型” の能力。彼の右腕は平時は前述の後遺症によりあまり力が入らないようですが、契約能力行使時には常人をはるかに上回る腕力と強度を発揮します。ただし、その性能は本人の精神状態に大きく依存するので必ずしも強力な武器になるとは言えません。むしろ本人の精神的なムラっ気によって戦闘中に砕け、武装が解除されてしまう事がまま、あります」
「ふむ。どちらも決して弱い能力ではないと思うんだけどねぇ……」
「同感です。どちらかと言えば、能力よりも本人達自身の精神的な未熟さが目立ちますね」
「まぁ、それはしょうがないよねぇ。二人共まだ十七歳だもん」
あっけらかんというリチャードに白けた視線を向ける村瀬。
本来なら上司に向ける目つきではないが、思ったことをそのまま態度で表現できる程度にはお互いの関係性が良いのだろう。
「………。その十七歳の少年少女に現場を任せたのは所長ですよね?」
「百回の訓練より一回の現場! って思ったんだけどねぇ」
「本来、学生は入れない我々D-PAINに十七歳で合格した。そのポテンシャルを否定するつもりはないですが、流石に結果を求めるには尚早かと」
「尚早ね。ま、確かに。それは認めましょう。でもウチは慢性的に人手不足だし、あまり時間もなさそうなんでね……」
やれやれ、という欧米人のようなオーバーなリアクションで軽いため息を付きつつ、ぼやくような素振りを見せるリチャード。実際、彼の出身はイギリスらしいので本場のリアクションなはずなのだが、どこか演技がかっている。
リチャードの言葉を理解しかねる村瀬。
「時間とは? 指数関数的に増え続ける契約者犯罪の件数のことですか?」
「………………魔人」
長い沈黙の後、ポツリと呟く。
それまでの世間話をしているかのような柔らかい雰囲気は一変し、リチャードの顔が真顔になる。
“魔人” という剣呑な単語に村瀬の緊張感も高まる。
「……」
「悪魔との “契約” 、ではなく “融合” を果たすことで人間も悪魔をも超越した者。このままのペースで悪魔との契約者が増え続ければ、遠からず魔人も生まれるだろう」
魔人。
かつて人類は一度だけその厄災に見舞われたことがあった。
十五年前はじめて悪魔との契約者が世に出始めた頃だ。
その時魔人が発生したのはイギリスだった。
そして現在、イギリスは未だ完全に復興したとは言い難く、国土の七%は特別汚染地域として封鎖されている。それほど大きい破壊の爪痕を残したのだ。
リチャードはイギリスの出身。そしてD-PAIN発足前、その前身組織で契約者となって前線へ出て戦った最初の世代だと聞く。
魔人に関しては誰も知らない何かを知っているのかもしれない。
「……その、私は “魔人” という存在を名前くらいしか知らないんですが、契約者が増えることと魔人の誕生は関係あるんですか?」
「さぁ? 私も知らない(笑)」
「……」
これだ。喰えない人だ。と村瀬は思った。
さっきまでの緊張感はどこへやら。いつものヘラヘラした顔に戻っているリチャード。
ヒゲをさすりながら、所長室を後にしようと椅子から腰を上げ、歩きだす。
「ま、ただのカンさ」
「……(野生のカン…ネコだから)」
「村瀬くん。キミ今『猫だから野生のカン』とか考えてたでしょ」
「……」
「ネコじゃないんだよ私。獣化する契約能力って知ってるでしょ?」
「そんな事よりもですね」
「そ、そんなこと!?」
「もうどこかで魔人は続々と生まれている……なんて可能性もありますかね?」
かねてから疑問だったことを村瀬はリチャードに尋ねてみる。
魔人と呼ばれる人間も悪魔をも超越した存在。それが実はすでに生まれているということはないのだろうか。
別に生まれたからと言って必ずすぐに地上で大暴れ、というわけでもないのではないか。むしろ、人間社会に溶け込み潜伏し、虎視眈々と機会を伺っている魔人、という存在のほうが脅威に感じられる。無論、いればの話だが。
「それはないね」
しかしその想像は、あっけなくリチャードに否定される。
「何故ですか?」
「だとしたらとっくに人類は滅びている」
「はぁ」
冗談なのか本気なのかよくわからない事を言いながらバタンとドアを閉めるリチャード。
しかしその飄々とした言い方がかえって真実味があるように村瀬には感じられた。
◇
D-PAIN本部ビル屋上。
手すりによりかかって景色を眺めながら、左手だけで紙パックのジュースにストローを刺し、飲む。
グレープフルーツ果汁百%の程よい酸味が口の中に広がった。
酸味により少しだけ目が細まる。俺の左隣ではアラガミが手すりに座ってドーナツをもぐもぐ食べていた。
「あの時、腕の強化が砕けなければな……。アラガミのせいで負けちゃったじゃんよ」
俺の滅入った気持ちなどどこ吹く風というようにドーナツにかぶりつくゆるキャラのような悪魔に自然と口調も愚痴っぽくなってしまう。
「違うのダ。吾輩の能力はお前が望んだ分だけ吾輩の強い肉体を貸すことなのだ。お前の気持ちが相手に負けていたのだ。『この爆発に耐えられるのか? 耐えられないかもしれない』 お前は一瞬、そう思ってしまったのだ。だから右腕の強化は砕けたのダ。お前が未熟なのダ」
「うぐっ……!」
アラガミはこちらを見ずに喋り続ける。食べながら喋るものだからポロポロと口からドーナツのカスがこぼれてきちゃない。
こんな悪魔に精神論を説かれるとは、なんと腹立たしい。
「それにあの時、強化があってもお前の実力ではあの大男には勝てなかったのだ。要するに、お前の完敗なのダ」
「ぐぅ」
ぐうの音も出ない。出てるけど。
「要 す る に 、 お 前 の 完 敗 な の ダ」
「うるさいよっ! 二回言うなよ! 聞こえてるよ!」
アラガミの首を掴んで締め上げる。
しかしアラガミは全く意に介した様子はない。
くっ、なんてふてぶてしい奴なんだ。
呼んでないのに出てくるし、何か食わせないと文句言うし、この間なんか無断で俺のスマホを使って課金してゲームやってたし!
でも、何より腹立たしいのは、コイツの言うことは割と正しいってことだ。
俺が頭の片隅で、自分でも薄々気づきつつも言われたくないなと思っていることを的確に言ってくる。
まるで悪魔のような奴なのだ。いや、悪魔なんだけど。
この悪魔のような悪魔を黙らせる方法はないものか。
俺は首を掴んでいたアラガミをポイと開放し、頭を抱えながら再び手すりに寄りかかった。
そんなタイミングで、背後から声が柔らかい衝撃が俺を襲った。
「ドーン!!」
「うわっ」
この声は小夜ねぇだ。
ドーンの掛け声とともに勢いよく俺にぶつかりつつ、とはいえそれで俺がよろめいたり倒れたりしないように包み込むようにふんわりと抱きしめられた。
──ハッ!ということは今俺の背中には押しつぶされるようにあたっているはずだ。何がとは言わないが。
俺は背中にかつてないほど全神経を集中させる。
うぉぉ、全力で感じ取れ! 燃え上がれ俺の大宇宙!
……。
…………。
うぉ。ふわっとしてる。おっきい。略してUFOだ。何がとは言わないが。
「モモちゃん? 難しい顔してどしたの?」
「はっ! 小夜ねぇ」
しまった。集中するあまり顔面が固まってしまっていた。
「今の集中力があれば大男にも勝てたかもなのダ」
「やかましい」
「集中? 何に集中してたの?」
「いや、大丈夫。なんでもないから」
「ね、私もここで休憩して良い?」
「うむ、許可しようなのダ」
アラガミよ、なんでお前が答えているのダ?
「アラガミちゃんありがと〜」
なんで小夜ねぇもお礼を言っているのダ?
「う〜ん、風が気持ちいいねぇ」
小夜ねぇは体を離すと俺の右隣で同じく手すりにより掛かり、伸びをする。やわらかい風に長い髪がなびいた。
大きな瞳を持った小さな顔を乗せる体はまるでアニメのキャラクターのように華奢ながらも凹凸がはっきりしている。
凹凸っていうか、上から順に凸凹凸って感じだね。
さておき、この人はただの日常の仕草ですら絵になるな。
小夜ねぇと妹の陽菜はそっくりだが、見た目は少しだけ違うし、性格は全然違う。
陽菜はツリ目がちだが小夜ねぇはやや目尻が下がっていて、それがセクシーだ。
陽菜は俺と同じく高校生で、まだわずかに年相応の子供っぽさが残るような顔立ちをしているが、俺たちより四つ年上の小夜ねぇはそういった幼さを良い意味で全て捨て、洗礼された大人の色気を漂わせていた。
いや、俺がガキだからそう思うだけで所長や村瀬さんからしたらまだまだ小夜ねぇも子どもっぽいのかもしれないけど。
ともかく、そんな大人の魅力を漂わせる外見をしながらも、性格は人懐っこく明るい。
俺や陽菜は人見知りがちで、特に陽菜はもともと無口で大人しい性格をしているのも相まって、人と打ち解けるのにだいぶ苦労するみたいだが小夜ねぇは違う。
老若男女の別け隔てなく誰とでもすぐにフラットに会話できる人だ。かといって、相手のプライベートに無遠慮に入っていくことはしない丁度いい塩梅の距離感もちゃんとわかっている。
俺からすると外見も中身もその全てがパーフェクトを思わせる。小夜ねぇはそんな人だった。
そんな小夜ねぇに言わなければいけないことがあることを思い出した俺は、体を小夜ねぇにむけ、居住まいを正してから頭を下げる。
「すみませんでした」
これは、姉に対する謝罪ではなく職場の先輩に対する謝罪だ。
「うぅん? かしこまっちゃってどうしたの?」
しかし、小夜ねぇにはいまいち伝わってないようだった。
「結果的に売人は捕まえたけど、自分と陽菜だけでは無理だった。それに、契約アイテムを買おうとしていた客の方は逃してしまった」
それに、いつも迷惑ばかりかけてごめん。
足を引っ張ってごめん。
そんな言葉が頭をよぎったが口には出したくなかった。
「結果だけで言えば指名手配犯の真柴を捕まえられたんだし、良いんじゃないのかなぁ? 所長はなんて言ってたの?」
わかってはいたが、小夜ねぇはふがいない俺を責めなかった。
それが子ども扱いされているようで少しだけ辛い。が、それもまた自分が未熟なせいだ。
小夜ねぇが俺を責めないのなら、深刻な雰囲気はここまでにしよう。
「ん〜と……いつもの感じで『おつかれ〜』って言ってた」
俺も気を取り直しておどけた感じで所長の声真似をする。
「何それ。あははっ、全然似てない!」
全然似てないらしい。マジか。
「あり、そうかな? 結構自信あったんだけど」
「ネコ感が足りてないんだよ〜」
「ネコ感て」
手すりに二人並んで寄りかかりながら、笑う。
ふと、遠くの景色から手前に目線を移すと、自分たちがいる位置から斜め先に見える階下の廊下を歩く陽菜がいた。
このD-PAIN本部ビルはL字型のような形をしていて、俺と小夜ねぇは位置的には今その末端部分にいる。
視線を斜めに向ければL字の対面側の側面が見えるわけだ。
廊下の窓ガラス越しに見える陽菜は早歩きで廊下を進んでいる。
陽菜は昔から姿勢が良く、歩くのが早い。
彼女の歩く姿が今も昔も変わらないせいか、俺はランドセルを背負ったお互いの幼少期を思い出した。
芋づる式に、過去からこれまでをあれこれと思い出す。
「…………」
少し沈黙をはさみ、俺は小夜ねぇに自分の悩みを相談してみることにした。
「俺の両親が亡くなって、俺は六藤家に引き取られたじゃん?」
俺は言いながら、右の手を開いたり握ったりしてみる。
相変わらず、手にはろくに力が入らない。これは後遺症だ。
六歳の頃、両親が運転していた車が事故を起こし、両親は死んだ。
同乗していた俺もまたその時、右腕の肘から先がずたずたになった。
一応、切断こそ免れたものの、今もまだ右腕に力は入らないし、細かい作業は指が震えてしまい、できないとまでは言わないがやりづらい。
事故を機に、俺は利き腕を左手に変えることを余儀なくされた。
確か、六藤家に引き取られた時も右腕は包帯でグルグル巻きだった気がする。
右手を眺めながら喋る俺に、小夜ねぇが相槌を打つ。
「うん、今でも覚えてるよ。モモちゃんがウチに来た日のこと」
俺の両親には親戚がいなかったようで、施設に引き取られるかどうかということだったのだが、そこをご近所で家族ぐるみで付き合いのあった小夜ねぇと陽菜の両親が引き取ってくれたのだ。
「でも、おじさんもおばさんも亡くなってしまった。契約犯罪者に殺されて」
それがおよそ四年前。俺と陽菜が十三歳の時だ。
小夜ねぇと陽菜の両親、六藤のおじさんとおばさんは家に入ってきた強盗に殺されてしまった。
強盗は、悪魔との契約者だった。
「うん」
普段は明るい小夜ねぇも、沈痛な面持ちで小さく頷く。
「俺も陽菜も小夜ねぇも、それで契約犯罪者と戦うことを決めた。でも、戦う理由が皆一緒ってわけでもない」
それは俺たちの原点。
始まりを同じくし、同じ道を歩いているような俺たちだが、見据えている先は少しだけ違う気がした。
「小夜ねぇは、契約犯罪者を憎んでいて、その悪い奴を憎む気持ちを戦う力に変えてる。D-PAINに入って数年で、あっという間にエースになった。陽菜も、そんな姉の背中を見て自分も誰かを守りたいって、戦う事に決めた」
おじさんとおばさんが死んでからの四年間は目まぐるしかった。その日々を思い出す。
「でも俺は……。俺は、どうなんだろう」
それはここ最近、ずっと考えていたことだ。
「俺は、小夜ねぇみたいに、自分と接点のない犯罪者を『悪魔との契約者で悪いヤツだから』って、それだけの理由で戦いに命を賭けるのは、おっかないって思っちゃう。かといって、陽菜みたいに会ったことも無いような、まだ見ぬ誰かを守りたいとも強く思えない」
我ながら情けない悩みだと思う。きっと、D-PAINに入りたいと思ったその時は今のように悩んでいなかった。
D-PAINに入るまでは良かった。D-PAINは独立した組織だが、一方で国際的な公的機関だ。国によって細則はまちまちだが、少なくとも日本では一介の高校生が入れるものではない。
厳しい審査や試験をくぐり抜けD-PAINに入れたのは、きっと自分の中の “何か” が認められたのだ。それは、きっと誇っても良いはずだ。
だが……
「俺は、何を理由に戦うんだろう。最近そんな事ばかり考えて、胸のあたりがもやっとするんだよね」
理想と現実はちょっとだけ違った。
D-PAINになって以降の失敗ばかりの日々が、俺に “何のために戦うのか” を忘れさせてしまったのだろうか。
あるいは、はじめからそんなものなどなかったのだろうか。
「……」
沈黙する小夜ねぇ。
こんなことを小夜ねぇに言って、俺はどんな返事を求めているんだろう。
そう自嘲気味に考えたところで、意外な返答が小夜ねぇから返ってきた。
「モモちゃんが戦う理由、多分私わかるよ」
「え?」
パードゥン?
俺自身がわからない俺の悩みの答えを、小夜ねぇが知っているとな?
「でも教えてあげない」
「なんじゃそりゃ!」
盛大な肩透かしにずっこけそうになる俺。
もしかして、ふざけて元気づけようとしてくれてるのかな。そう思って横に並ぶ小夜ねぇの方を見ると、彼女はいたって真面目な顔だった。目線はこちらではなく、手すりの向こうの遠い景色を見ている。
「そういうのって、誰かに答えを教えてもらうようなものじゃないでしょ?」
「そらまぁ、そうですけど」
わからなくはない。
自転車の乗り方を口で説明したとて、実際に自転車をまたがねば乗れるようにはならない。
自分の体で経験し、時には転んで覚えないといけないのだ。
心もそれと同じで、自分で感じたことを自分なりに理解しないと本質的な納得は得られない。
そう言いたいのだろうか。
理屈はわからなくはない、わからなくはないけどさぁ
「ヒント、ヒントをおねがいしゃす!」
悩める子羊である俺は必死だ。
例え本質的な納得が得られなかったとしても今のこのもやもやを取り払うだけのほんのちょっとの取っ掛かりだけでも欲しい。
意地もプライドもない発言だが、もはやこんな悩みを相談している時点で今更だ。
「う〜ん、ヒントかぁ」
人差し指を顎に当て、空を見上げて考え始める小夜ねぇ。
それはヒントをあげるかどうかで悩んでいると言うよりは、どう言えばヒントになるのか。ヒントをどう与えるかという部分を悩んでいるように見える。
「よし!」
しかし、10秒もしないうちに彼女の思案は終わったようだ。
「モモちゃん、私とデートをしよぅ!」
「なんですと!?」
俺氏、今日一番に驚愕する。
想い人に人生相談をしたら、デートすることになったでござるの巻。
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