ピラト

 ローマの属州総督、つまりおれたちを捕まえた帝国の出先機関の親玉はピラトというやつだそうだが。いまピラトの面前に引き立てられて審理を受けているのは……

 どうも、あれが「ナザレのイエス」なるカルト教祖らしい。


「余は、この羽ペンを書類の上でちょいと走らせるだけでだな、貴様を十字架にかける力も、また逆に無罪放免にする力もあるのだぞ。それをよく心得た上で、もう一度答えろ。――お前は、自分を『ユダヤの王』だと主張するのか?」

「その通りです。わたしはユダヤの王です。真理について証明するために、この地上に降り立った者です。故に、真理を得ようとする者は誰でもわたしの声に耳を傾けます」


 何言ってんだこいつ。わけわかんねえ。やっぱカルトって怖いな。


「わからん。余には真理とやらのことはさっぱりわからん。だが、貴様らの風習については知っている。過越の祭の日には、罪人をひとり放免にするそうではないか」


 おっ。


「そこで、それを余が決めることにしよう。イエスという男を、過越の祭のために放免にする」


 すると、集まっていた群衆から抗議の声が上がった。


「ナザレのイエスではなく、バラバのイエスを!」

「バラバを!」


 と、人々が口々に叫んでいた。おれもせっかくだから


「ゲスタスを」


 と叫んでみたが、誰からも無視された。


「そうか。ならばバラバを赦免しよう」


 ということになったらしい。


「では、次だ。余の名は、ポンテオ・ピラトである。お前の名は」

「ゲスタスと申します」

「おのが罪状を述べてみよ」

「バラバの仲間をしておりました。ですので、一緒に釈放してやくれませんか?」

「過越の祭の恩赦は一人だけだ。お前は自分が殺めた人間の数を忘れてしまったのか?」

「ちょっと思い出せません」

「ならば、十字架の上でとくと思い出すがいい。お前は磔刑だ」

「そんな――」


 おれは口に猿轡をされて引っ立てられた。


「次」


 次に審理を受けるのはディスマスだった。

 

「おのが罪状を述べてみよ」

「誓って申し上げます。おいらが殺した数は七人で全部です」

「十字架の上でその七人のために詫びるがいい。お前も磔刑だ」

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