二
「ふぅ~」
風呂上がり、私はスマートフォンをいじりながら、ベッドに寝転ぶ。
考えているのは、やっぱり茉白のことだった。別の人と、メッセージのやり取りをしているというのに、だ。
メッセージの相手は、彼氏。夏休みが終わったころから付き合い始めた、同じクラスの男子だ。
彼よりも、
考えれば考えるほど、茉白に対する心配が出てきた。
「本当は、よくないんだろうけど」
私はメッセージ画面をぼんやりと眺める。私の長ったらしい文章と、彼氏のそっけない返事が交互に繰り返されていた。その画面を見て、はぁ、と深いため息をつく。見れば二十二時十八分を境に、彼からの返信は途絶えていた。今の時刻は二十三時を回ってしまった。きっと、眠ってしまったのだろう。
「おやすみくらい言ってくれたらいいのに」
そう言って、私はスマートフォンをベッドに投げ出す。彼はいつもそうだ。
彼と付き合っているとは言っても、恋人らしいことは一切したことない。だから、本当に付き合っているのかどうか、疑問に思うことが増えてきていたのだ。
彼とやること、といえば、今のようなメッセージのやり取りと、学校の図書室で一緒に勉強をすること、そのあと、たまに一緒に帰ることくらい。メッセージのやり取りだって私からの一方的なものだし、彼からメッセージを送ってきてくれたこともない。一緒に勉強をするのだって、会話すら生まれない。わからない問題があったときに声をかけてみるけれど、くすりとも笑いもしない。一緒に帰るのだって、帰る時間がたまたま一緒になったから一緒に帰る、ということでしかない。
彼から告白してきたのに、付き合ってみればこれだ。不満も溜まってくる。
昼休みや放課後に、恋愛の話をしているクラスメイトが、うらやましく映る日もあった。
「──昨日帰るとき、彼が手を繋いでくれてね……!」
「──よかったじゃん‼」
「──すっごいドキドキしたよ……‼」
私は彼と手を繋いだことなんてない。
「──今度の休み、デート行くんだ~」
「──え、どこに行くの?」
「──猫カフェ! 私が行ってみたいって言ったら、一緒に行こうって」
私は、休みの日に彼とデートなんかしたこともない。
彼女たちの会話を横目で見るたびに、こんなことを思う自分が醜くも思えた。
けれど、彼には彼なりのペースがあるのだろう、とずっと思ってきた私もいた。それでも、彼への不満は溜まっていくばかり。もう、限界も近かった。
そこに現れたのが茉白だ。茉白と彼を無意識に比較してしまって、茉白があまりにも私の理想であることに、もっと彼女に、茉白に近付いてみたいと思ってしまう。もっと茉白のことを、知りたいと思ってしまう。恋にも似たよくわからない感情が、私の心を支配していた。
部屋の電気を消して、布団の中に潜り込む。彼氏のことはもう忘れてしまって、私の頭の中は茉白のことだけになっていた。
少し遠回りをして、海を回って帰ったら、また茉白に会えるだろうか。
「会いたいなぁ」
こんなこと、彼氏には思ったこともない。会っても会わなくても、きっと同じだから。どちらにしても、そっけない返事をされて、どんどん私の先を歩いていくのだ。
私はまた、ため息をつく。さっきまで茉白のことで頭がいっぱいだったのに、もう彼氏のことを考えてしまっている。不満が溜まっているとはいえ、彼氏に対しての気持ちもあることにはあるのだ。
「……どうしたらいいんだろ」
消え入るような声で呟く。それは布団に吸い込まれていき、部屋に響かずに消えていった。
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