「ふぅ~」


 風呂上がり、私はスマートフォンをいじりながら、ベッドに寝転ぶ。

 考えているのは、やっぱり茉白のことだった。別の人と、メッセージのやり取りをしているというのに、だ。


 メッセージの相手は、彼氏。夏休みが終わったころから付き合い始めた、同じクラスの男子だ。


 彼よりも、茉白ましろのことを気にかけてしまう。あのあと、どれだけの時間を海で過ごしたのか。寒くなかったか。私は部屋にずっといたからわからなかったけど、雪はすぐに止んだのか。ちゃんと帰れたか。風邪は引いていないか。

 考えれば考えるほど、茉白に対する心配が出てきた。


「本当は、よくないんだろうけど」


 私はメッセージ画面をぼんやりと眺める。私の長ったらしい文章と、彼氏のそっけない返事が交互に繰り返されていた。その画面を見て、はぁ、と深いため息をつく。見れば二十二時十八分を境に、彼からの返信は途絶えていた。今の時刻は二十三時を回ってしまった。きっと、眠ってしまったのだろう。


「おやすみくらい言ってくれたらいいのに」


 そう言って、私はスマートフォンをベッドに投げ出す。彼はいつもそうだ。

 彼と付き合っているとは言っても、恋人らしいことは一切したことない。だから、本当に付き合っているのかどうか、疑問に思うことが増えてきていたのだ。

 彼とやること、といえば、今のようなメッセージのやり取りと、学校の図書室で一緒に勉強をすること、そのあと、たまに一緒に帰ることくらい。メッセージのやり取りだって私からの一方的なものだし、彼からメッセージを送ってきてくれたこともない。一緒に勉強をするのだって、会話すら生まれない。わからない問題があったときに声をかけてみるけれど、くすりとも笑いもしない。一緒に帰るのだって、帰る時間がたまたま一緒になったから一緒に帰る、ということでしかない。

 彼から告白してきたのに、付き合ってみればこれだ。不満も溜まってくる。

 昼休みや放課後に、恋愛の話をしているクラスメイトが、うらやましく映る日もあった。


「──昨日帰るとき、彼が手を繋いでくれてね……!」

「──よかったじゃん‼」

「──すっごいドキドキしたよ……‼」


 私は彼と手を繋いだことなんてない。


「──今度の休み、デート行くんだ~」

「──え、どこに行くの?」

「──猫カフェ! 私が行ってみたいって言ったら、一緒に行こうって」


 私は、休みの日に彼とデートなんかしたこともない。

 彼女たちの会話を横目で見るたびに、こんなことを思う自分が醜くも思えた。

 けれど、彼には彼なりのペースがあるのだろう、とずっと思ってきた私もいた。それでも、彼への不満は溜まっていくばかり。もう、限界も近かった。

 そこに現れたのが茉白だ。茉白と彼を無意識に比較してしまって、茉白があまりにも私の理想であることに、もっと彼女に、茉白に近付いてみたいと思ってしまう。もっと茉白のことを、知りたいと思ってしまう。恋にも似たよくわからない感情が、私の心を支配していた。



 部屋の電気を消して、布団の中に潜り込む。彼氏のことはもう忘れてしまって、私の頭の中は茉白のことだけになっていた。

 少し遠回りをして、海を回って帰ったら、また茉白に会えるだろうか。


「会いたいなぁ」


 こんなこと、彼氏には思ったこともない。会っても会わなくても、きっと同じだから。どちらにしても、そっけない返事をされて、どんどん私の先を歩いていくのだ。

 私はまた、ため息をつく。さっきまで茉白のことで頭がいっぱいだったのに、もう彼氏のことを考えてしまっている。不満が溜まっているとはいえ、彼氏に対しての気持ちもあることにはあるのだ。


「……どうしたらいいんだろ」


 消え入るような声で呟く。それは布団に吸い込まれていき、部屋に響かずに消えていった。

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