ベクター様

「新しく入った子かしら」冒険者の黄色髪の女の人が言った。

「はい、そうです。新しく入りました。ベリックといいます」僕は名乗った。

「へぇ、あんた特技とかあるの」

「特技ですか。ボールを遠くに飛ばせるとかですかね」

僕は野球を少しやっていたことがあったのでそう言った。

「じゃあ、勝負しましょうよ。私はアリシアっていうの」

アリシアさんはそういって、僕を外に連れて行った。

僕は、エレナさんに一声かけて、外に出た。


僕を連れてきたのは、冒険者の訓練場であり、

そこには的があった。


「あの的にこの石を正確に当てることができたら勝ち」アリシアさんが言った。

「まあ、余裕ですよ」僕は言った。

男と女の身体能力だったら男が勝つ。

しかし、ここは異世界である。魔法もあるし剣もある

もしかしたら魔法で速度を調整したり、位置を調整できるのなら

僕は負ける。

けど、やってみないとわからない。


僕が最初になげる。

的は30m先であり

少し山なりに投げれば当てれる距離である。

僕は助走をつけて石を投げた。

石はやまなりの軌道となったが的には当たらなかった。

もうすこし、右に投げていればあたったのにと思った。


「残念だったわね、私の投球を見てなさい」アリシアさんが言った。

アリシアさんは助走をつけずに石を投げた。

石は加速していき、的に命中した。



「私の勝ちということで、朝ごはん半額にしてもらえないかしら」アリシアさんが言った。

「エレナさんに承諾してもらわないといけないので、聞いてみます」僕は言った。


僕とアリシアさんは店に戻った。

僕はしぶしぶ、アリシアさんに勝負に負けて、飯代を半額にしてほしいという

要望を言った。

「まあ、負けたならしょうがないか。サービスするよ」エレナさんが言った。


僕は、アリシアさんに半額になったことを伝えると喜んでいた。

「ベリックそこの席に座りなよ」アリシアさんが言った。

「僕ですか。まあいいですけど」僕はアリシアさんに言われた通りに座った。

「ベリック、まったく魔法を使っていなかったけど、

仙道士か」アリシアさんが言った。

「仙道士ってなんですか」僕は聞いた。

「仙道士っていうのは、仙人になるために、まったく魔法を使わないで生きていく人たちのことだよ」

「へぇ、そうなんですね。けど僕は使い方が分からないだけですよ」僕が言った。

「なるほど、まだ鍛練が足りていないのだな」アリシアさんが言った。

「僕は家の手伝いで農業していただけですから」僕は言った。

「そういえば、今度、大規模の商人が来るらしいんだ」アリシアさんが言った。

「商人ですか。」

「そう、珍しいものを持ってくるそうだから、私はそこで、冒険者でためた金を使うことにしているんだ」

「なるほど、いいですね。」

「ベリックも雇われてるだけじゃ、金はたくさん稼げないぞ」

アリシアさんが言った。

けど、安定して稼げるのは意外と雇われた身であるからなと思った。


「そういえば、あそこの奥にいる執事風の男の人って

どこかの貴族の執事ですか」僕はアリシアさんに質問した。


「あのサリエルっていう執事か。あそこの貴族は

シュタイン家の貴族で、そこの貴族は珍しい宝石で儲けてるらしいんだ。」アリシアさんが言った。

「珍しい宝石ですか」

「何やら、闇のルートで入手した宝石を高値で商人だったり貴族たちに売ってるらしい。」

「それは、すごい商売ですね」僕が言った。

「まあ、気をつけるにこしたことはないよ」アリシアさんが言った。


色々とアリシアさんと話した後、昼に近づいてきたので、

店内は忙しくなり、僕は席を離れて、仕事についた。


来る客層はさまざまで、

若い人から、老人まで来ていた。

その中で、なにかの宗教に入って聖書を読んでいたり、

酒を昼から飲んで酔っぱらっている男の人がいたり、

剣を持っていかにも剣士風の男の人がいたり

店の接客をしながら色々な人と接することができて

楽しかった。


「ベリックさんそろそろ休憩入っていいですよ」セレナさんが言った。

「了解です」僕は店裏で丸椅子に座って休憩していた。


「ベリック、料理人にならないか」料理人のオリバーが言った。

「いや、僕料理したことないんですよ」僕は言った。

「最近、料理を手伝ってくれる人がやめて困ってるんだよ。」

「料理っていつも何かレシピ見てるんですか」

「いや、まったくレシピ見てないよ、もう覚えてるから」オリバーが言った。

これぞ、料理人だなと思った。

この店が繁盛している理由の一つはオリバーの料理の腕がいいのだろう


「ちょうど、今、注文入ってないから料理食べてみるか」オリバーさんが言った。

「いいんですか」僕は言った。


オリバーさんが大きい卵の殻を割って鍋に入れて、

そこに、肉や野菜を入れていく。

火で焼いていき、いいにおいがした。


オリバーさんは焼きあがるとすぐ皿の上に

乗せて、僕に料理を渡した。


「おいしそうですね。肉が大きくて食べれるか分からないですけど」僕が言った。

「その肉は、良くとれる肉で、おいしいぞ」オリバーさんが言った。

僕は、その肉を食べた。

歯ごたえがあり、おいしかった。


「すごいですね。オリバーさんは毎日、こんなおいしい料理を作ってるんですね」

僕が言った。

「まあな。ここの料理人でもあるからな」

誇らしげに言った。


休憩時間が終わり、僕は料理をお客さんに配る。

僕はその時によく新入りさんですかと尋ねられるので

「今日は言った新入りです。」すぐさま答えるようにしている。


時間は2時を過ぎて、

お店に入る人は減ってきた。

そのタイミングで、聖書を読んでいる女性の人に声をかけられた。

当然、僕は応じる。

「あの、今、暇ですか」女性が言った。

「いや、まあ暇ですが」

「じゃあ、聖書を私が読むので聞いてもらいたいんですけど」女性が言った。

「そうですか」僕はよくわからず答えてしまった。

この世界では聖書を聞くことがよくあるのだろうか

「では、読みますね」女性が言った。


「この世界は、神様が作りました。

その神様の名前はベクター様です。

ベクター様は、最初に土や水を作りました。

その次に、植物や魚を作りました。

ベクター様は植物や魚を作った段階で満足していました。

しかし、ベクター様の姉、グレイナ様が

この世界の水を無くしてしまいました。

すると、魚たちは干からびて死んでしまい

植物は枯れてしまいました。


ベクター様はグレイナ様にこの世界に干渉したことに怒りました。

しかし、グレイナ様は、あなたの世界は中途半端です。

想像力を養えば、この世界は喜怒哀楽に満ちた世界になります。

グレイナ様は言いました。

ベクター様は最初は何のことかわかりませんでしたが、

僕たちみたいな感情があるものを世界に作れば、

喜怒哀楽があり、いい世界になるのではと思い

動物を作り始めました。そして次に人間を作り始めました。

すると、人間たちは勝手に動物たちを殺していくことや、

縄張り争いを始めた人間たちにこれはどうにかしないといけない

と思い、ベクター様は人間の敵となる魔物を創造しました。

魔物を解き放った時、人間たちは一時、混乱状態になりましたが

やがて一致団結して魔物たちを駆り出すようになります。

そして、ベクター様はそれでは飽き足らず、魔王というものを

創造してしまったのです。

人間たちは、恐れおののきましたが

その中に勇敢なものが現れました。

その者は、魔王討伐を目指して、魔王のいる城をめざしたのです。

魔王城に入り、魔王を討伐しました。

人間たちは大喜び、

その者は、のちに勇者と呼ばれました。


しかし、魔王は100年起きに復活しました。

人間たちは戦わないといけません。


私たちベクター教は、

魔王と戦う勇者を見つけるために、布教しています。」

ベクター教の女性が言った。

「いや、すごい話を聞かせてくれてありがとう。」僕は少し怖かったが

素直にお礼を言った。


この世界は、魔王がいるということがわかったし、

なによりも勇者とよばれるものがいることもわかった。


「私、エリカというんです。私たちは魔王や魔物によって滅亡の危機になるのを

防ぐために、勇敢なものを見つけて、修行をさせているんです」

「そうなんですね」

「ベクター教はかなりの信者がいますよ。

あなたも興味があれば教会に行きませんか。

待っています。」

エリカさんが言った。

「うん、興味を持ったら行くよ」僕は言った。


僕はエリカさんの話を聞いて、

勇敢なものを見つけて、修行させるとはどういう意味なのだろうと思った。

レベルを上げることなのか、必殺技を覚えることなのか

わからない。

ベクター様が、なぜ魔王を作ったのかわからないけど

間違いなく、人類にとっての試練だなと思った。


お皿を洗ったり、接客をしたりして

時間が過ぎていく


3時になり、少しお店の中が

にぎやかになってきた。


「ベクター教って知ってます。」僕は料理人のオリバーに言った。

「ああ、知ってるよ。あそこは勇敢なものを勇者にするために

色々なことをやっているよ。」オリバーが言った。

「そうなんですね」僕が言った。

「なんでも、怪しい儀式をしているらしい」

「本当なんですか」

「あくまでも噂だけど」オリバーが言った。

僕は皿洗いをしていると


「おい、そこの店員、俺の金はどこ言った。」

酔っぱらったおじさんが僕を呼んだ。

僕はめんどくさいので知らんぷりをしていると

「おい、そこの店員だよ。見ない顔じゃないか」

これはめんどうなのに絡まれたと思って

僕は、しょうがなく酔っぱらいの男のところに言った。


「新しく入った新入りです」僕は答えた。

「最近、、家を建設してるんだが、まったくと資材が集まらないんだよな」

酔っぱらいの男が言った。

「資材ですか。昼から酒飲んで大丈夫なんですか」僕は聞いた。

「大丈夫、大丈夫。休日だから」

「僕、最近この町に入ってきたんですけど、なんか面白い場所って

ありますか」僕は聞いた。

「ああ、それなら図書館がこの町にあるよ」

「図書館ですか。なるほど」

普通に話したら、気のいい男だった。


その後、午後6時になり、

お客さんが増えてきた。


「ベリックは、今日はかなり働いたから、

今日は終わりね。

今日の報酬渡すね」エレナさんが言った。

「ありがとうございます」僕はそういって

エレナさんから報酬をもらった。

「また、明日もよろしく」エレナさんが言った。


僕は店を離れた後、

とぼとぼと歩いて行った。

今日も噴水の近くで寝ないといけない。

宿代は高いので、お金をためないといけない。


噴水の近くにいき、僕は

暗くなったので寝た。



次の日、朝早くに起きて

エレナの酒屋に向かう。


「エレナさん今日も来ましたよ」僕は言った。

「ベリック、今日もよろしく」エレナさんが言った。

「そういえば、この先の森って何があるんですか」僕は聞いた。

「そこは、魔物がいる」エレナさんが言った。

「ベクター教の人が、魔王と勇者がいると聞いたのですけど、

これって本当ですか」僕は念のために聞いた。

「もちろん、いるよ。魔王が出たときは本当に大変だったっていう

噂話は聞いたことがあるわよ」

「へぇ、そうなんですね」僕が言った。


エレナと話終えた後、

お客さんが入ってきたので

僕が対応することになった。


剣を持っているいかにも強そうな人が来客した。


「いらっしゃいませ」僕は言って、

席に案内した。


「お前、剣を振ったことがあるか」剣士の男にいきなり

聞かれた

「いや、もったことはないですけど重いんですか」僕が聞いた。

「俺の持っている剣は重いけどな。」

「あなたは、冒険者ですか」

「もちろん、魔物を倒すために剣を持っている」

男が言った。


「僕も魔物を狩りにいきたいです」

「それなら、俺が見てあげるよ」

「まあ、でも今度でいいです」


剣士を席に案内した後、

僕は注文を聞いて、厨房の

オリバーさんに伝えた。


待っている間、僕は剣士の話相手となった。


「最近な。魔物が増えているって噂を聞くんだ。

魔王がもうすぐ現れるんじゃないかって」剣士の男が言った。

「魔王ってまだ、いないんですか」僕が聞いた。

「魔王は、勇者が討伐したが、また出てくる」

「それは大変ですね」僕が言った


皿を洗いながら僕は、魔王ってどんな形をしているんだろうと思った。

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『エレナの酒屋』の働き人 Taku @Taku777701

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