五秒で読める掌編集


【まるとりっぽうたい】



「ここから先、あなたは進めません……今回は縁がなかったということで――諦めてください」



「しかしパスポートはありますよ?

 縁がなくとも、向かう『資格』はあるのではないですか?」













【優勝コメント】



「――優勝おめでとうございます!! では最後になにか一言、お願いします!!」


「えーと……うわ、緊張するな……なにを言おうとしたんだっけ……えっと――」


 あ、と気づいた時には既に手遅れだった。


「あぁ、とんだ……頭ん中、真っ白だ……」


 結局、思い出すことも新しく浮かぶものもなにもなかったので、無難に「嬉しいです、応援、ありがとうございました」と言って締めた……司会者は満足ではなかったようだけど、それでも文句はなく、そのまま無難に司会をやり遂げていた。



 舞台を下りてから、さっきの反省だ。

 ……また逃げた。

 最初から優勝コメントなんて考えていなかった。なにもなく、真っ白だったのだ――



 最初から、内容が飛ぶことも織り込み済みの作戦だったのだ。


 話す内容を『飛んだ』ことにして、自分のターンを、『飛び越え』た。











【ずれても最高】



「おばーちゃん、死んじゃった……」

「かもね。でも……死んだとは言っても、きっと世界を『ずれ』ただけなんだ」

「ずれた……?」


「うん。神様が君のおばーちゃんを、隣の世界へ、ぐいっと、手の甲でずらしただけなんだと思う。それを僕たちは大昔から『人が死んだ』と言っただけ――

 だからきっと君のおばーちゃんは、ずれた先の世界で元気に暮らしていると思うよ」


「そっか……。

 おばーちゃん…………隣の世界でいつもみたいに眩しいクラブではしゃげてるかな……?」


「アグレッシブなおばーちゃんなんだね……」










【言った方が花】



「今日は綺麗な方がたくさんいますね……目の前の方も、その右隣の方もその次の方も…………あ、(コンプライアンスのことを考えないと……容姿いじりはまずいよね)……うん、まあ、あはは……。その次の方も綺麗ですね。うん、ほとんど綺麗な方ばかりで、今日は楽しい飲み会になりそうですね――それじゃあ乾杯!!」



「いっそのことブスって言っていじってくださいよぉ!!」










【犬語り】




「わんっ! わんっわふっわぉん!!」


「吠えちゃダメよ。近所迷惑でしょ? あなたのすぐ傍で叫び続ける人間がいたらどう思うの? うるさいって思うでしょう? 迷惑に感じるでしょう?

 聞いた人――聞いた犬が不快になるかもしれないの。必要に迫られているわけじゃないなら、吠えるべきじゃないの。分かった? 分からないならおやつあげないからね」


「わふ――わぉんわん!!」


「こら。だから吠えちゃダメだってば。しー。……どうして吠えちゃダメなのか、もっと一から説明しようか? 長くなるよ? それをずっと聞いてなきゃいけないんだよ? いいの? あっ、逃がさないからね、ちゃんと聞きなさいよー!」


 抱きしめられ、じたばたともがく飼い犬に向かって、ご主人がこんこんと説明していた。

 お説教ではないけれど……そうだったとしても飼い犬はどこ吹く風だった。

 視線は明後日の方向に向いている。


「――――だからね、玄関前を誰かが通っただけで吠えるのは、意味がないから、」



「ねえ、ずっと犬に言い聞かせてるけど、喋り損じゃない?」





 …おわり

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トイレ中の花子さん 渡貫とゐち @josho

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