五秒で読める掌編集


【両親の馴れ初め】



「ねえおかーさん。

 おとーさんとはどこでどう出会って結婚したの?」


「え、どうしたの急に」

「学校の宿題」


「宿題で、そんなプライベートなことを聞いてくるの……?」



 母親は迷いながらも、提出するプリントは後で添削すればいいや、と思って素直に答えた。

 まあ、正直に話したことをそのまま提出されたとしても、子供の落書きだろうと思って鵜呑みにはされないとは思うけど……一応だ。


 先生に嘘をつくことができても、娘に嘘をつくことはできない――したくなかった。


「お父さんと出会ったのは、狭い部屋の中だったなあ……」

「ふんふん」


「で、急に足下から水が出てきてね……、制限時間が一時間。一時間後には部屋の中が水でいっぱいになっちゃうの。だからお父さんと協力して、部屋の出口の鍵を見つけないといけなくて……――今でも鮮明に覚えてるわね」


「ふむふむ……ん?」


「確か、初チューはそこだったわね……

 まあ救命活動だったんだけど……でもカウントしちゃったの」


「おかーさん……作り話は、ダメ」


「本当よ? だって私とお父さん、【デスゲーム】で出会ったんですから」










【多様性です。】



「――性別で差別しないでください!」

「これは多様性です」



「目に毒になる不適切な広告を掲示しないでください!」

「これも多様性です」



「人の顔を見てブスと言わないでください!」

「繰り返しますが、多様性です」



「ネットで悪口を書かないでくれませんか!?」

「多様性ですけど」



「あなたの発言はコンプライアンス違反です!」

「多様性……なんですけどねえ」



「多様性多様性って……多様性を理由になんでもしていいわけじゃねえぞ!?」

「それもまた、多様性ですよね」



「あんたって気持ち悪いよね……死ねばいいのに」

「なんでそういう酷いことが言えるんですか!?」

「多様性だっつの、バーカ!!」











【色違い】



「では最後に一言、コメントを頂けますか!」


 舞台上でマイクを向けられ、無茶ぶりをされた。


 想定していなかった俺が悪いが、マイクを向けられて一瞬で答えられるわけもなく、


「えっと……すみません、頭の中、真っ白です……」

「あ、急でしたもんね、すみません」


「あ、いえ、思いついてはいるのですけど、人前で言うことではないので……――真っ白とは言いましたけど、実際はピンク色ですね」











【広告】



「――ちょっと! あんたらの広告をよく見るんだけど……ダイエットの広告なんか見せてくれちゃってさ……これってあたしが『デブ』だって言いたいわけ!?!?」



「あの……そもそもネット広告なので見ている側の容姿は関係なくてですね……」











【女と女】



「悲鳴を上げ、目の前に男がいればその男が悪くなる……、少なくとも第一印象は男が悪くなるよな……。これって女に有利過ぎる。

 常に喉元にナイフを突きつけられているようなもので、既に首の皮一枚、切っているようなものじゃないか――。

 男と女の溝が広がっていくのは、こういう危険性を孕んでいるからだと思うんだけど……それに、やろうと思えばすぐにでもできてしまう――そりゃあさ、女って嫌われるよな」



「それを女の総意みたいに言わないで。

 そういうやり方で陥れてるのはアンタだけでしょ」





 …おわり

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相談者サンプル 渡貫とゐち @josho

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