第44話 これは夢か?~アドレア視点~

 準備が出来たところで、レイリスを迎えに行く。するとちょうど、レイリスが母上と一緒に、部屋から出てきたのだ。今日は花柄のお揃いの服を着ている。


「やっぱりこの服が一番動きやすくていいわ。ドレスは性に合わないのよね」


 そう言って満足そうな顔をしているレイリス。


「確かにレイリスは、ドレスよりもそっちの服の方が似合っているよ。さあ、お腹が空いているだろう?料理長たちが、美味しい料理を準備してくれているよ」


「まあ、それは本当?嬉しいわ。ずっと公爵家のお料理が食べたかったの。早く行きましょう」


 レイリスが嬉しそうに走っていく。本当に彼女は、出会った頃と変わっていないな。自由奔放で無邪気で。そんなレイリスが、僕は大好きだ。


 レイリスと離れていた時間がとても辛くて長くて、もう二度とレイリスと離れたくはない。でも、まだ僕たちは婚約を結んだわけではない。もし今回の件で、レイリスが増々結婚に消極的になったら…そう考えると、僕は怖くて婚約の件を切り出すことが出来ないのだ。


 そんな僕の気持ちとは裏腹に、嬉しそうにレイリスは料理を頬張っている。いつの間にか一緒について来ていた母上も、嬉しそうにレイリスを見つめていた。


「レイリスちゃんは、本当に美味しそうにお料理を食べるわね」


「本当に美味しいのですもの。王宮のお料理は味気なくて、やっぱり公爵家のお料理が一番美味しいですわ」


「そりゃ我が家の料理長たちの腕は、この国で一番だもの。レイリスちゃん、王宮での不自由な生活をしてみてどうだった?アドレアと結婚すれば、あんな面倒な生活は二度と送らなくて済むわよ。だからどうか、アドレアとの結婚も考えてみて」


 にっこり笑った母上が、レイリスにそんな事を言いだしたのだ。


「母上、レイリスは今、ジョブレスによって辛い思いをして来たばかりなのですよ。さすがに僕との結婚なんてまだ…」


「そうだったわ!夫人、公爵殿が帰っていらしたら、すぐに私とレアの婚約の手続きを行って下さい。マリアン、家の両親にも知らせて。今日中にレアと婚約を結ぶから」


 えっ?今僕と婚約を結ぶと言った?


「レイリス、今の言葉は本当かい?僕と婚約を結ぶというのは」


「ええ、本当よ。だって早く婚約を結ばないと、またあの頭のおかしな王太子にちょっかいを出されるかもしれないでしょう。もうあの男と関わるのは御免よ。レア、あなたと婚約を結べば、もう二度と王太子と関わらなくて済むのよね?」


「ああ…もちろんだよ。でも、いいのかい?僕と本当に婚約を結んでも」


「今更何を言っているのよ。あなた、私と結婚したかったのでしょう?それとも、もう私と婚約するのが嫌になってしまったの?」


「そんな訳ないだろう。でも、こんな風に勢いで決めていいのかなって。もしレイリスが後悔する様なことがあったら…それに僕と婚約を結ばなくても、もうジョブレスが君にちょっかいを出すことはないよ。ジョブレスはやり過ぎた。その結果、貴族たちから怒りを買ったんだ。これからジョブレスは裁判にかけられるだろう。良くて幽閉、最悪極刑という事も十分考えられる。だから僕と婚約しなくても、レイリスがジョブレスと会う事なもうないのだよ」


 僕は何を言っているのだろう。黙っていれば、レイリスと婚約できるのに…


「あれだけの事をしたのだから、当然よね。本当にあの男、人として最低だったわ。それからレア、私が後悔する事なんてないわ。私はいつも、自分に正直に生きているから。でも…一度だけ後悔したことがあったわね。あの男に連行され、王宮で生活していた時間、“どうしてもっとあなたと早く婚約を結んでおかなかったのだろう“てね。


 勘違いしないでよ。別にレアの傍にいたいから後悔した訳ではないのよ。公爵家のお料理は美味しいし、好きな事をさせてくれるし。夫人や公爵殿はお優しいし。それに…あなたはいつも私に優しいし、言う事をたくさん聞いてくれるし…


 だからね、私、もし王宮から出られたら、すぐにあなたと婚約を結ぼうと決めていたのよ。レア、あなたから婚約を申し込んだのだから、今更嫌はなしよ」


 そう言うと、プイっとあちらの方を向いたレイリス。


 これは夢なのか?

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