第40話 遅いわよ

 そう強く願った瞬間、リングがパリンと音を立てて割れたのだ。あら?勝手にリングが割れてくれたわ。


 とはいえ、まだ体調は万全ではない。でも今なら!


 すっと令嬢たちの前に出ると、護衛たちをギロリと睨んだ。ひるむ護衛たち、こいつら、大したことないわね。


「おい、なにをしている。こんな小娘たち、すぐに捕まえろ」


 王太子の一声で、護衛たちがとびかかって来た。見える、見えるわ!こいつらの動きが。次々と護衛たちをなぎ倒していく。


「まるで相手にならないわね。さて、次はあなたの番よ。こんなにボロボロにしてくれたお礼を、たっぷりとしないとね」


 ニヤリと笑い、王太子に近づく。すると


「ま…待ってくれ。僕ちゃんは偉いんだぞ。僕ちゃんに手を出したらどうなるか」


「そうね、極刑は免れないわね。でも、既に私は極刑でしょう?それなら好きにしてから死にたいわ」


「ギャァァァ」


 王太子の顔面目掛け、鉄拳を振り落とした。ちょっと力を入れ過ぎたかしら?王太子が2メートルくらい吹っ飛んだのだ。


 もちろんこの程度で許すわけがない。ふらつく体をなんとか動かし、ゆっくり近づくと…


「えっ……」


「た…助けてくれ…お願いだ」


「まあ、やだ!」


「汚いですわ…」


 令嬢たちからの悲鳴に近い言葉が飛ぶ。それもそのはず。顔から血を流し、鼻水と涙を流しながら腰を抜かし、失禁している王太子の姿が。


 さすがにこの姿には、私の顔も引きつる。まさか失禁までするだなんて…


 これ以上このアホを痛めつけても仕方がない。


 そう思った時だった。なんだか外がやけに騒がしいと思ったら、ドアが勢いよく開いたのだ。まずい、まさか援護部隊が来たのか?そう思ったのだが、現れたのは。


「レイリス!」


「レア!」


 そう、レアだったのだ。後ろにはサフィーロン公爵やお父様、お兄様の姿もある。


「レイリス、なんて事だ!助けるのが遅くなってしまって、すまない」


 涙を流しながら私を抱きかかえたレア。


 そうよ、この温もり…


「本当よ、あなた私に言ったわよね。必ず守るって。ずっと傍にいるって。何一つ守れていないじゃない」


 随分遅れたけれど、一応助けに来てくれたものね。だから今回だけは、特別に許してあげるわ。


 やっぱりレアの温もりは落ち着く。ダメだ、安心したらなんだか無性に眠くなってきた。


「レイリス、大丈夫かい?しっかりしてくれ、レイリス」


「レア、うるさいわよ。私、眠くてたまらないの。後始末は頼んだわよ」


 レアに向かってほほ笑むと、そのまま意識を飛ばしたのだった。


 ※次回、アドレア視点です。

 よろしくお願いします。

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