第4話 夜会当日を迎えました

「マリアン、そんなにウエストを締め上げないで。今日はお菓子を食べに行くことが目的なのだから」


「お嬢様は何をおっしゃっているのですか?天下のサフィーロン公爵家主催の夜会なのですよ。とにかく、見た目はしっかりして行かないと」


 別に私の見た目なんて、誰も気にしていないだろう。そもそも私は、お菓子を食べに行くだけだ。もしお父様の言う様に、ほっぺたが落ちるくらい美味しいお菓子なら、こっそり持ち帰り、研究しようと思っている。


 それくらい、私はお菓子が大好きなのだ。早くお菓子が食べたいわ。


「お嬢様、準備が整いました。こうやって着飾ったお嬢様は、本当にお美しいですわ…この美貌を生かさないだなんて、勿体ないです。ぜひ素敵な殿方を見つけて来てください」


 マリアンが相変わらず訳の分からない事を言っていたので、スルーしておいた。そもそも私は、殿方になど興味がない。それよりもお菓子だ。早くお菓子を頂き、さっさと帰って来よう。


 そんな思いで、馬車に向かう。


「レイリス、気を付けて行ってくるのだよ。あまりお菓子を食べすぎてはいけないよ」


「あなたの事だからうまくやるだろうけれど、あまり悪目立ちしない様にしてちょうだいね」


「レイリス、姉上の様に、素敵な殿方が見つかるといいな。名目上はアドレア殿の人探しと言う事になっているが、令息たちも沢山来ているらしいよ」


 お兄様まで、訳の分からない事を言っているわ…こういう場合は、触れないのが一番ね。


「お父様、お母様、お兄様、行って参ります」


 そう伝え、馬車に乗り込んだ。馬車に乗るのはいつぶりかしら?最近はずっと屋敷に引きこもっていたものね。たまには外の空気を吸うのも悪くはないだろう。


 そんな事を考えているうちに、立派なお屋敷が見えて来た。我が家の2倍はあろうかというくらい、大きなお屋敷だ。


 ここがサフィーロン公爵家か。さすがこの国で一番権力を持っている貴族の家ね。立派だわ。まさか天下の公爵家が、我が家の様な伯爵家まで招待するだなんて。せっかく天下のサフィーロン公爵家に来たのだ。ゆっくり見させてもらうのも悪くはないだろう。


 馬車が停まると、早速降りて大ホールに向かった。今まで数える程度しか夜会には参加したことがない私ですら、明らかに違いが分かるほど立派なホール。


 1人でゆっくり入場していくと…


「レイリス様、お久しぶりですわ。お体の方は大丈夫なのですか?最近お姿をお見かけしませんでしたので、心配しておりましたの」


「1年前に参加された夜会では、すぐにお帰りになられましたものね。今日もあまり顔色がよろしくなさそうですが…」


「体調が思わしくなくても、さすがに天下のサフィーロン公爵家の夜会に参加しない訳にはいきませんものね。お可哀そうに。さあ、こちらにイスが準備してありますわ。どうぞ休んでください」


「皆様、いつも私に優しくして頂き、ありがとうございます。はい、今日もあまり体調が思わしくありませんが…さすがに公爵家の方から誘われた夜会に、伯爵令嬢の私が参加しない訳にもいかず…皆様にも、ご迷惑をおかけしてごめんなさい」


 ポロポロと涙を流し、上目使いで訴える。すると


「お可哀そうに。さあ、こちらですわ。どうかゆっくりお休みください。あなた、レイリス様に飲み物を」


 令嬢たちが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。なぜか私は、夜会に来ると顔色が悪くなる様で、こうやって皆が心配してくれるのだ。もちろん、演技なのだけれどね。こうやって体の弱い令嬢アピールをしておくと、途中で帰っても皆何も言わない。


 さらに体の弱い令嬢というイメージを付ける事で、令息も私を嫁候補から外してくれるので、令息たちに絡まれる事もないのだ。令息たちに目を付けられると、面倒なダンスを誘われるから、本当に煩わしい。


 さて、今日も体調が悪いですアピールも出来たし、お目当てのお菓子を食べたら、さっさと帰ろう。せっかくだから、お菓子を全部制覇してから帰らないとね。


 その為にも、この人たちを追い払わないと。


「皆様、私の為にありがとうございます。私はもう大丈夫ですので、どうか皆様は殿方の元へ」


 笑顔でそう伝えた。


「分かりましたわ。どうかレイリス様は、ゆっくりお休みください。それでは私たちはこれで」


 笑顔で去っていく令嬢たちを笑顔で見守った。そして周りを見渡す。あそこにお菓子があるのね。あまりがっつくと、また変な噂が流れてお父様に文句を言われると面倒だ。


 さりげなく近づき、スマートにお菓子を頂かないと。ここでも私の演技の見せ所だ。

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