五秒で読める掌編集


【謝らないよりは……】



 経過時間。


 それは謝罪から誠意を奪う。


 問題発生から時間が経てば経つほど――その後の謝罪には、裏側の台本を、受け取る側に意識させてしまう。


 時間があれば台本を練ることができたでしょう? どう言えば相手へ謝罪の誠意を感じさせることができるのか……。

 考え抜いた上で作られた台本をなぞるだけの謝罪から得られる誠意とは、きっと、書き手側のプロの技なのだろう。


 問題が起きて、すぐに謝らなかった時点で、誠意はもう取り戻せない。


 子供同士がじゃれていて、たまたま指が相手の子の目に入ってしまった……

 そこで咄嗟に出た「ごめん!」こそ、最も誠意が感じられる謝罪だ。


 菓子折りを持って自宅を訪ねる? カメラの前で謝罪をする? ……それが誠意? 場を整え、抱えたモヤモヤを消化するための儀式である。それが必要なのかもしれないけれど……。


 いつでもどこでも、謝ることはできる。


 だけど――


 誠意が感じられなくてさらにモヤモヤするのは、謝られた側なのではないか?










【夢中の最中】



「すごい……っ、壁にたくさんの計算式……あれで答えを導き出しているんですね!!」



「いや、あの数字列に意味なんかないよ。考えてる最中についつい動かしてしまう手遊びみたいなものだと思う……よく見れば計算式、答えが間違ってるでしょ?」











【リサイクル】



「問題が起こったのに謝罪しないんですか?」



「過去に謝罪動画を投稿済みですので、それをご覧になってください。

 過去に撮影したものであろうが、今日明日で撮影して投稿しようが内容は同じですので」











【優先席】



「――若者が優先席に座ってるんじゃないよ!!」



「え? いや、年齢じゃないっすよね……優先席を使うべき人のための優先席のはずですけど……。若くても障がいを持っている人はいますけどね」


「元気なあんたのどこが障がい持ちなんだい」


「――”ココ”です。

 俺、頭がおかしいんで……誹謗中傷は当然、八つ当たりで悪質なクレームを入れる人間ですよ? こんな奴、頭に障がいを持っていると言えるでしょ?

 ……ああ、でもそうなるとほぼ全員が障がい持ちになるんですかね……じゃあ優先席と一般席の区別なんてないのかもしれないっすね」











【晴男vs雨女】


「晴男と雨女が同じ場所にいれば曇りになる?」


「打ち消し合うからそうなるんじゃない?」



「じゃあ――嵐ジジイと積雪ババアが同じ場所にいれば?」


「相乗効果で嵐の上に雪が積もる最悪の悪天候になるかもね」











【共鳴】



「こ、この人が悪いんですっ、私は、被害者、で……ぐす、うぅ……」


「無実の罪で被害者呼ばわりされて、俺も、精神的ショックを受けてますよ……うぅ、う、ぁあああああんっ!!」



 女の涙は最強の武器だ。


 であれば、それが最大効果を発揮する前に、かき消すように男も泣いてしまえばいい。


 一方が悪者になることはなく、両者が被害者となれば、味方は分散するはずだから……。



 ――男はプライドを捨てろ。


 さすれば、女に立場と地位を利用され、理不尽に狩られることもない。





 …おわり

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この記事にコメントは『もう』ありません 渡貫とゐち @josho

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