輝く声
ありがとうと伝えることが出来たあの日。
私はこれまで生きてきた中で一番、輝いてみえた。
「志乃」
宏美が私の隣にいる。リキがいる。みんながいる。
それだけでもう、良かった。
私の居場所は、今もまだここにあるって分かったから。
「みんな待ってるよ」
今日は数ヶ月に一度、みんなに会う日。あの日、みんなに会えてこういう時間が作れるようになった。
そう言ってくれたリキに感謝。
リキは昔から私のことを分かってくれる、唯一の男友達。
私が転校する日も、背中を押してくれたやつ。
リキの言葉が一番、私を助けてくれた。
何よりも嬉しかったの。
懐かしい学校が見えてくる。
会う場所は学校。
ここでみんなと待ち合わせをする。そしてあの頃使っていた教室に入って、あの頃と同じように話をして。
そういうことが出来るようになったのは、クラスメイトの智子がこの学校の先生になっていたから。智子が校長先生に掛け合ってくれた。
その校長先生は私たちの時の数学の先生だった。私のこともちゃんと覚えてくれていた清水先生。それが本当に嬉しかった。清水先生は、私たちの担任だった田丸先生と当時から仲がいい。
そんな私たちの担任の社会科の教師だった田丸先生は、今は違う学校で校長先生をしている。
田丸先生の授業は本当に楽しかった。田丸先生だから、歴史が好きになったんだ。
「うっす!」
リキが正門で私たちふたりに気付き、声をかけてくる。
「あれ。リキ。早いじゃん」
「そっちこそ」
リキはこの時間を楽しみにしているらしい。昔の友達とワイワイやることが、リキの一番の癒しの時間なんだそうだ。
本来の自分に戻れる、と言ってた。
社会に出た私たちは本来の自分を押し殺して生きてる。リキもそうなんだ。
リキの本来の姿を知らない、リキの会社の人たちは勿体無いと思う。こんなにいいやつなのに、リキの姿を知らないんだもの。
リキと宏美と3人で教室まで行く。その途中に智子に会った。
「智子」
「志乃。ちょっと待っててね、後で教室行くから」
智子は慌ててるようだった。
「どうしたの?」
「ウチの部の子らが、ケンカしてるらしくて…」
智子は体操部の顧問をしている。
パタパタと、廊下を走って行く。その姿を見送って、リキは言った。
「ちょっと、見に行ってみねぇ?」
リキはこういう事が好きだ。昔から誰かがケンカしてると聞くと、飛んで行くくらいだった。
3人で智子の後を追って行く。向かったのは体育館。この学校の体育館は新館の3階にある。
「懐かしい…。あ、ウチ等の部室がまだある」
体育館手前に男子バレー・バスケ部の部室と、女子バレー・バスケ部の部室がある。バレー部とバスケ部の部室がひとつで、よく対立していた。バレー部の物がなくなっていたり、バスケ部の子らがバレー部の場所を取っていたり…。その度、部長が話し合いをしていたんだ。
「よくケンカしてたね」
宏美も懐かしむように部室を見ていた。
「お前達っ!いい加減にしなさい!」
体育館からは智子の叫び声。
原因は分からないが、ケンカが始まっていて収まっていないみたい。
体育館を覗くと、智子は教師を顔をしてケンカを抑えていた。女の子と男の子が取っ組み合いのケンカ。
男の子とケンカする女の子…なんて気が強い子。でも、その時の子供たちがとても輝いて見えた。
智子がどうにかケンカを抑えて、今日はもう練習はお終いっと告げて、片付けをさせていた。
「智子」
「あ…。このまま練習させててもろくなことにならないからね。怪我の原因にもなるし」
先生の顔だぁ…とマジマジと見てしまった。
「何」
「うん…。ウチ等もああいう時があったんだよね」
「そうだね」
「何よりも楽しい時間だったな。ケンカしててもさ」
「うん…」
何よりもあの時間が輝いていた。
あの時間、みんなと会えた時間。みんなと過ごした時間。
輝いていた。
笑う声も、怒った声も泣いた声も。
全てが輝いていたんだ。
一緒に笑って泣いて怒って、悩んで過ごした時間。
今も胸の中にあるよ。
Fin
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