愛好家

hiromin%2

「私はね、泣きわめく子どもが好きなんですよ。分かります?」

「ほら、子どもって、人目も気にせずギャンギャン泣くでしょう?」

「悲しいのか、怒っているのか、それは分かりませんが、私には、なんとも悲劇的に聞こえるんですなあ」

「昼下がりになると、時々、ここらへんにやって来るんですよ。子どもたちが」

「キーキーキーキーキー……」

「甲高くて、耳障りな声で、恥も外聞もなく泣き叫ぶんです」

「信じられませんよ、ほんと」

「子どもって、やっぱり頭が悪いでしょう? 身体も弱いから、泣くくらいしかできないんですよ」

「何のために泣くんでしょうね? 誰かに助けてほしいんでしょうか? 自分では何もできない無能だから」

「でも、幸せですよね。泣けば誰かが助けてくれるんだから」

「私の想像するかぎりでは、どれだけ泣いて迷惑をかけても、社会から咎められることはないみたいですねえ」

「保護されているんですか? うらやましいことです」

「私だったら蹴飛ばしますね。役立たずの幸せ者どもを」

「……まあ、実際にはできませんけどね」

「当然ですが、私はあなたたちが大嫌いですよ。ただ、泣いている子どもだけは、別です」

「だって、弱者が、まるで絶望の底から――あの声で泣くんですよ?」

「ゾクゾクしますよ。私はいつも虐げられる側ですが、彼らの泣き声を聞くと、なんだか“生きる悦び”ってやつが、少しだけ分かる気がするんです」

「まるで、私自身が彼らを苦しめているような、そんな気さえしてきて」

「たまに、彼らの首を絞める妄想をしてしまうんですが、それがもう、たまらなくてね……」

「キーキー……キィイイイ……」

「……おっと、失礼。つい物まねをしてしまいました」

「いやあ、興奮してきましたよ! ああ、子どもたち、来ないでしょうかね、今すぐにでも!」

「ああ、聞かせてほしい。あの、弱者どもの、屈服しきった、無抵抗な声を!」

「必死で、涙ぐましく、官能的で、甘美な……あの声を!」


 R氏は、それらの発言をすべて聞いたうえで、顔を真っ赤にして激怒した。

「ふざけるな! 人を馬鹿にするのもいい加減にしろ。そもそも何の権限があって、そんな冒涜的なことが言えるんだ」

「お前は異常だ! お前みたいなやつこそ、地獄に落ちるべきなんだ。覚悟しておけ!」

 R氏はよどみなく罵倒し、息を荒げた。すると、かれはふっと笑い、どこか軽蔑するような目でR氏を見つめた。

「そうですか。ですが、私に言わせれば異常なのはあなたたちのほうですよ」

「だって、私たちをみんな食べてしまうじゃないですか」

──と、檻の中のニワトリは言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛好家 hiromin%2 @AC112

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る