第三章:南方「朱雀」圏での試練2

2. 柳宿・星宿・張宿 ― 秘密結社の陰謀

 蒼藍たちが鬼を救い出してから三日後、都では「南方祭儀祭(さいぎさい)」という大規模な祝祭の準備が進んでいた。

 年に一度、女王・紅の前で華やかな舞踊や歌劇が披露されるこの祭典は、表向きには豊穣と繁栄を祈るものとされている。

 だが、井の持つ密偵網から、裏の情報がもたらされた。

 「この祭典の裏で、“朱雀の儀式”が行われる。そのために、星宿の者が生贄にされる」

 情報が確かなら、祭典の舞台そのものが“封印解放”の場であり、闇の結社が朱雀の力を完全に掌握しようとしている。

 蒼藍は星の気配を読みながら、会場となる王宮大劇場へと向かう。

 その中で、ひときわ強い気配を放っていたのが、一人の舞踊家だった。

 白い衣に紅の帯。舞うたびに衣が花びらのように広がる。観客の誰もが息を呑むその舞いの主は、柳宿の民——柳(りゅう)。

 だが、蒼藍はすぐに異変に気づく。

 「彼女……“術”をかけられている」

 心が静かに頷く。

 「心を封じられ、操られている。自分の意志じゃない」

 千佳が手を握りしめる。

 「今、助けないと……儀式が始まってしまう!」

 その夜、劇場の裏手から潜入した蒼藍たちは、柳が控える楽屋へと踏み込んだ。

 柳はぼんやりと鏡を見つめ、誰かに言われるがまま衣を着替えていた。

 「柳さん!」

 千佳の声に、柳の肩がかすかに震える。

 だが次の瞬間、楽屋の奥から影が現れる。

 白装束に身を包み、額に不気味な紋章を刻んだ男——

 「ようこそ、星宿の器たち。君たちも……朱雀の火に焼かれていくといい」

 彼は星の力を闇に転じる技法を使う“黒儀者”。

 その力で柳の心を縛り、操っていたのだ。

 戦いの中、蒼藍たちは柳を直接傷つけずに彼女を助けようと苦戦する。

 だが、心が叫ぶ。

 「柳! あなたの“舞”は、人を縛るためのものじゃない……あなた自身を、自由にするものだったはず!」

 柳の目に光が宿る。

 「私の舞は……私のもの……!」

 力の封印が解け、舞台の幕が無人のまま燃え上がる。その火の中で柳は自由を取り戻し、蒼藍のもとに加わる。

 一方、朱雀の星を読み取る儀式の場には、もう一人の星宿がいた。

 蒼藍が夜空を仰ぎ、重なる星の波動を読み取る。

 「この都に……俺と同じ“星術”の使い手がいる」

 向かったのは、都の外れにある古びた天文台。

 そこにいたのは、祭壇の星図を見つめる青年、星宿の民——星(せい)だった。

 彼は蒼藍とは異なる流派の占星術を使い、星そのものと対話する“シャーマン”的存在。

 「君が……蒼藍か。星の下に生まれし者の中でも、もっとも強い“器”だと聞いている」

 「なら、俺たちに加わってほしい」

 だが、星は静かに首を振った。

 「……都に封じられた“もう一つの儀式”を見届けるまで、俺はここを離れるわけにはいかない」

 その直後、結社の刺客が天文台を急襲。火が上がり、星が襲われる。

 千佳が叫ぶ。

 「今こそ、あなたの力が必要よ!」

 星がついに応じ、朱雀の星を解放。天文台の天蓋が割れ、夜空と一体化したような星力があたりを包む。

 「……ならばこの力で、すべての闇を照らす」

 星もまた仲間に加わった。

 そして王都の防衛線に戻る一行の前に、最後のひとりが立ちはだかる。

 銀の甲冑に身を包み、都の近衛団を指揮する将軍——張宿の者、張(ちょう)である。

 「お前たちが、星宿を集めている連中か。ここから先は通せん」

 千佳が息をのむ。

 「どうして……あなたは、正義の人だって聞いてた」

 張の瞳は鋭く、しかしどこか痛みを含んでいた。

 「女王の周囲に、闇が渦巻いている。それを断つには、私は私のやり方で動くしかない」

 だが、蒼藍は剣を下ろして言った。

 「なら、力を貸してくれ。俺たちは、女王自身を守りたい」

 張は静かに剣を収めた。

 「……女王を信じるなら、私も信じよう」

 こうして、柳宿の舞い手・柳、星宿の星術師・星、張宿の将軍・張が仲間に加わった。

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