第三章:南方「朱雀」圏での試練3
3. 翼宿・軫宿 ― 生贄の儀式阻止
朱雀圏での戦いが佳境を迎えようとしていた。
柳、星、張を迎えた蒼藍たちは、ついに“朱雀の力”を悪用する秘密結社の拠点を突き止める。場所は、王都の地下に隠された古代の祭殿。かつて朱雀神を祀っていたというその場所は、いまや黒装束の男たちが蠢く、闇の儀式の中心地となっていた。
そしてその中心に、囚われの身となっていたのが——翼宿の民・翼(よく)だった。
翼は、癒しと再生の力を持つ、朱雀の中でも特異な存在。その血が朱雀の火を完全に目覚めさせる“鍵”であり、儀式の生贄として連れてこられていた。
「この星の力を燃料に、古代の火を解放し、我らが“新たな世界”を築くのだ……!」
祭壇で叫ぶ男は、紅都の貴族の一人であり、王宮に長く仕えていた黒幕だった。
「千年以上前に封印された“朱雀の審判”……それを再びこの地に解き放つときが来た!」
蒼藍たちは、急ぎ王宮の外れにある星象台(せいしょうだい)へと向かう。
そこには、もう一人の星宿の気配があった。
静かな夜、無数の星が見下ろす天文観測の塔。その最上階に、星図を並べて儀式の時間を測っている者がいた。
黒衣に身を包み、巻物を広げながら星の動きを冷静に見つめる人物——軫宿の者・軫(しん)である。
「このままでは、朱雀の炎がこの都を呑み尽くす。だが……時間はまだ間に合う」
蒼藍が彼に叫ぶ。
「お前が導いてくれ。儀式の正確な場所と、星の流れ——すべてを!」
軫は手を止め、蒼藍たちを見た。
「君が“器”か。ならば、この座標を記録せよ。次の満天の星が交差する時、結社は最大の力を発揮する」
軫の知識と洞察により、儀式の真正な刻限と方角が判明する。
「もう迷っている暇はない!」
すぐさま蒼藍たちは地下祭殿へ潜入。そこではちょうど儀式が最終段階へと入ろうとしていた。
翼は、結社の術者によって炎の結界の中心に縛られていた。だが、瞳には消えていない光が残っている。
「誰かが……私を……呼んでる」
炎の結界に突入するのは不可能に思えた。だが——軫が低く叫んだ。
「星が、今、結界の“結び目”を解く瞬間を迎える。今しかない!」
その声を合図に、昴と亢、参が結界の縁を同時に斬り裂く。
炎が一瞬揺らぎ、千佳が結界の中へと飛び込む。
「翼さん、起きて! あなたはこんな場所で終わる人じゃない!」
千佳の声が翼の意識を貫いた。
次の瞬間、翼の身体から溢れ出す再生の光が、結界の炎を内側から破り、祭壇そのものを崩壊させる。
「私は……私の意思で、誰かを癒したい!」
翼の叫びが、地下を包む闇を洗い流した。
蒼藍たちは炎に巻かれながらも、翼を連れて脱出に成功する。
軫は塔の上から、都のすべての星々が再び輝きを取り戻したのを確認し、静かに呟いた。
「世界はまだ……変えられる」
こうして、翼宿の癒し手・翼と、軫宿の星読み・軫が仲間に加わった。
朱雀圏の七宿がすべてそろい、都は平穏を取り戻す。女王・紅は感謝を込めて一言、蒼藍たちに告げた。
「この国の未来は、あなたたちに託されている」
そして星々は、次の地へと蒼藍たちを導いていく——
第三章:南方「朱雀」圏での試練 終
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