第32話

 ミリアは静かに愛丸の手を取った。

途端に愛丸の鼓動が早くなる。

小さな頃、注射の前にちょっとした恐怖を覚えてドキドキしたのと同じような気分だ。

(俺、首筋弱いんだよな……)

愛丸がそんなことを考えていると、ミリアが握った手首に微かな痛みが走った。不思議に思って目を開けてみると、ミリアが愛丸の手首を軽く噛んでいた。

「手首から……?」

愛丸は一瞬、呆気にとられた。自分の予想とは余りにも違っていたからだ。

血を吸われている感触は僅かに有るものの、痛みは感じなかった。

それから少しの間そのままじっとしていたミリアが唇を離した時、手首から抜かれた細い犬歯が見る間に口の中に収まるのが垣間見えたが、もう愛丸が驚くことはなかった。

「もいいいの?」

愛丸は尋ねた。

「ええ、もう充分です。それよりご気分は?何ともありませんか?」

「うん、大丈夫。だけどちょっと意外だったなぁ……俺はてっきり首筋から吸うもんだとばっか思ってたから」

「首筋だと脳貧血を起す可能性が有ります。愛丸に害が有るようでは共生とは言えません」

ミリアは優しく微笑んでいた。

「ミリア……」

(やっぱり共生型って、本当だったんだ……)

愛丸は自分でも不思議なほど優しい気持になっていた。

ミリアが何故造られたのかなんて、そんなこともうどうでも良い。

現にミリアは此処に居て生きている。そして自分を必要としているのだ。

(それだけで充分じゃないか……)

「俺達、上手くやっていけるよね?」

「勿論です」

ミリアが小首を傾げてニッコリと笑った。

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