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第1話
「あ~、食った食った」
「結構美味かったな?」
「うん、こんな所にラーメン屋が出来てたなんて知らなかったなァ」
「だろ? 俺もこないだ知ったばっかなんだ、だから阿比古にも教えてやろうと思って、だけどちょっと遅くなっちまったな」
友人の脇坂が腕時計をチラッと見て言った。
「ゲッ!もうこんな時間、ヤバ、俺、帰るから、じゃな!」
愛丸は脇坂の時計を覗き込むと、慌てて友人に別れを告げた。
阿比古 愛丸(あびこ あいまる)はちょっと変わった名前の高校二年生、阿比古神社の次男坊で、兄の清一郎と二人暮らしなのだが、この兄と言うのが弟を溺愛していて、かなり口煩い。
(急がないと、また兄貴にしぼられちまう) 愛丸は夜道を急いだ。部活の帰りにちょっとのつもりで友人の脇坂とたち寄ったラーメン屋で、思ったより時間を潰してしまったのだ。きっと清一郎はいつもの様に食事もせずに愛丸が帰って来るのを待っているに違いない。愛丸にとって、待っていられるのは有り難迷惑といった感も無くはないが、それでも親代わりの清一郎の気持ちを考えると、足を速めずにはいられなかった。
愛丸は走った。
ラーメンを食べた後なので少し脇腹が痛い、おまけに部活の後の駆け足は結構きついものがある。
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