第11話

あれこれ考えていても仕方がないので、健介は渋々明陽の横に並んで歩き始めた。

 それだけで嫉妬や妬みの目差しに晒される。女のもさる事ながら、男の妬みだって相当なものだ、それが明陽と一緒にいる間中、ずっと健介に向けられているのだから、堪ったものではない。

 それでもやっぱり明陽と一緒に居たいと思うのは、明陽の人となりのせいなのだろうと、健介は明陽の横顔を見て思うのだった。

「健介は何にする?」

 食堂の入口で明陽が健介に尋ねた。

「僕は日替りランチにします。」

「そう、じゃあ僕もそれにしよう。」

「え、いいんですか?」

明陽が健介に合せてくれたのは直ぐに分る。

明陽ならもっと良い物を頼んだって良い筈だ、それなのに明陽は健介の問いにニッコリ笑って頷いたのだ。

 チケットを買ってから10分ほど待ってランチを受け取った二人は一番端の窓際の列に席を取って向い合せに座った。明陽と連れ立って入口に立った時から突き刺さるような視線が一斉に健介に注がれている、健介はそれを痛いほど感じながらもしごく自然に振る舞うよう努めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る