第7話

「小日向?ああ例の」 

九条はそう言うと、“フフン”と鼻で笑う様な仕種を見せた。

(例のって、どおゆう例のだよ……)

 健介はそう思ってブスッとした。


 気紛れで冷淡な性格に恐をなして、この人のことを、皆『九条様』と呼ぶ。

 明陽と違い、九条はそれを当り前の様に思っている様だが、健介はこういう類いの人間があまり好きではなかった。

「さてと、戻ろうか…」

 明陽が睨み合う二人の間に割って入ってそう言うと、九条と腕を組んで、健介にヒラヒラと手を振ってから無理やり校舎の方へ引っ張って行った。


 その日から、明陽は毎日のようにこの林にやって来て、昼休みを健介と過ごす様になっていた。

 その上校内の廊下などで出会うと、

「健介」と、軽く手を挙げて気軽に声を掛けてくれたりするものだから、嫌でも健介の存在を目立たせる事になり、健介の学校生活に影響を及ぼし始めていた。

 それまで浮いていた健介の存在は、今や“明陽様のお気に入り”だ。

当然、これ迄健介を無視していたクラスメイトなども、態度が一変、馴々しく話し掛けて来る様になっていた。

そんなクラスメイト達の態度を見ていると、健介は少々人間不信になりそうだ。

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