瞳
しゆ
第1話
「モデル?」
とある日の昼休み、花織ちゃんにモデルを頼まれたのがこの出来事の発端である。
なんでも次のコンクールが近い中で絵のモデルがまだ決まっておらず、私に白羽の矢が立ったらしい。
花織ちゃんたってのお願いということもあって、私はその依頼を二つ返事で引き受けた。
花織ちゃんも出来るだけ早く描き始めたいということで、早速その日の放課後からモデルをやることになった。
─────────────────
放課後の美術室の真ん中で、私は椅子に座って姿勢を正す。
貸し切り状態の部屋の中で、絵の具や粘土の独特な匂いに包まれて、なんだか少しそわそわしてしまう。
「可愛く描いてね〜」
私はフリフリと手を振った後、きゅっと顔を引き締める。
「もちろん。君の魅力を最大限に引き出して魅せると約束するよ」
そう言って花織ちゃんも椅子に座る。
「さぁ、始めようか」
花織ちゃんが真剣な顔で筆を動かし始める。
時折こちらに視線を向けながら、迷いのない動きで筆を進めていく。
私を見つめる花織ちゃんの瞳は、吸い込まれそうなくらい澄んでいて、その真剣な眼差しに全身を灼かれて燃えそうなくらいの恥ずかしさが身を焦がす。
だけどここはグッと堪えなくちゃ。
花織ちゃんが真剣に頑張ってるのに、私が恥ずかしがって中途半端なモデルになってしまっては申し訳が立たない。
「ふふふ、一途ってば緊張してるの?身体が強張っちゃってるよ」
私の身体に力が入っているのに気付いた花織ちゃんがくすくすと笑う。
「ほら、大丈夫だから」
花織は立ち上がって私のもとに歩み寄ると、優しく私の頬を撫でる。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。ね?リラックスリラックス」
「ひゃい……」
花織ちゃんの柔らかい手の感触に思わず身体の力が抜ける。
それを見て花織ちゃんも椅子に戻るとキャンバスに向き直る。
「さ、続けようか」
─────────────────
それからの作業は滞りなく進んだ。
完成した花織ちゃんの絵を見せてもらったけど、とても素敵な仕上がりだったと思う。
「お疲れ様花織ちゃん。この絵、とっても素敵!!」
「ありがとう一途。モデルが良かったおかげだよ。おかげさまでコンクールにも間に合った」
「良かった〜一安心だね。
それにしても、私の絵を描きたいなんて今回のコンクールのテーマっていったいなんだったの?」
「え!?……えーっとそれは……ひ、秘密」
「え〜なにそれ〜」
「だって照れくさいんだもん、一途も調べちゃダメだからね!!絶対だよ!!!」
「は〜い、分かりました」
もう……油断も隙もないなぁなんて花織ちゃんはそれからも真っ赤な顔で、しばらくぶつぶつ言っていたけど、ごめんね花織ちゃん。
実は私知ってるんだ、今回のコンクールのテーマ。
モデルをやるんだもの、作品のテーマはちゃんと把握しておかなくっちゃね。
知ってる上で、貴女の口からも聞きたかったの。
「私の宝物について」って。
瞳 しゆ @see_you
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