1LDK
秋乃光
DEAD or Live
「夜だけど、おはちゃん!
今回の『デッドオアライブ』は!
こ・ち・ら!
この家の!
六万五千円!
どどんと『六万五千円』でいきまっしょーい!」
俺の目の前には、カメラがある。
カメラの下に、一本の縦の線があった。
「なんだ……?」
俺はやたらハイテンションな女の声がする方向に、視線を向ける。
ピンク髪のツインテール、の後頭部が見えた。
「おおっと!
本日の
ピンク髪はキャッキャとはしゃいでいる。
女の前にはパソコンのモニターが二つ。
一つは、配信画面。
もう一つには、俺が映っている。
俺が現在置かれている状況を、ようやく、把握した。
「なんだよこれ!」
俺はゲーミングチェアーに縛り付けられている。
この前、同時視聴枠で観た『
なんで俺が座ってんだよ。
「ルールは
見に来てくれたリスナーのみんなが、ちゃんみがその日指定した金額よりも多く投げ銭してくれたら、挑戦者はおうちに帰れるよぉ★
リスナーは挑戦者への“
ただぁ!
ちゃんみが配信を終了するまでに目標金額へ到達しなかったら……?
挑戦者は!
次回の『デッドオアライブ』まで!
ちゃんみとのドキドキ共同生活!
もしくは
「なんだよそれ!」
俺は自力での脱出を試みる。
身をよじると、目の前のカメラが近付いてきた。
「おおっと!
ゼロ円で脱出しようたってそうはいかんざき!
挑戦者からはよく見えないだろうけど、カメラの下にはナイフが取り付けられているんで、首に突き刺さって死んじゃうよぉ★」
つまり、この一本の黒い線はナイフらしいな。
ナイフを真ん前から見たことないからわかんなかったわ。
「でゎ、本日の挑戦者。お名前からドゾー」
ピンク髪がキーボードをたたく。
カメラの上のほうにあるLEDが、緑色に点灯した。
「俺は、
「ちゃんみとの初のコラボ配信!」
生殺与奪の権を握られていなければ、殴りかかっている。
この『ちゃんみ』を名乗る女の気分次第で、いつだって配信は終えられるのだから。
というか、この配信、
何十人だか何百人だか何千人だかの中に、最初に言っていた目標金額の『六万五千円』を気前良く払ってくれるヤツは、いるのか?
「誰か、払ってくれねえか!」
俺はこの配信を見に来ているヤツらに訴えかける。
相手をするべきは、
「払ってくれたら、三倍――いや、命の恩人だ。命の恩人には、一生かけて、一千倍にして返す! どうだ!」
「太っ腹ぁ★」
女がケラケラと笑うのに合わせて、小刻みに揺れるツインテール。
笑うな。
俺は必死なんだ。
助けてくれ!
「参考までに、先日のトルアンの配信が終わった後の話をするね。
トルアンのアカウントに、ちゃんみ、
見ての通り、ちゃんみは
俺からは顔が見えない。
俺をこんな目に遭わせるような女だから、美形ってのはウソだろう。
配信画面にはVTuberとしてのガワしかいないんじゃないかな。
俺の位置からは、ピンク髪の背中に隠れて見えない。
美人の写真なんて、イマドキどっからでも拾える。
「トルアン、出会い厨のウワサはガチだった件!
ちゃんみとの待ち合わせ場所にるんるんで来てくれちゃったから、あとはどーんしてお持ち帰りよぉ★
どうだどうだ!
ガチ恋勢、涙目!
とある
『芸能界はちんちんが付いているヤツから消える』
のだねぇ★」
コイツぅ……!
「ふむふむぅ。
なぁるほどぉ」
「見ているみんな。よく考えてみてくれよ。俺は『六万五千円』を一千倍にして返す、と言った。武士に二言なしだ。俺は必ず返す。だから、今は、人によっちゃ痛い出費かもしれないが、」
「ちゃんみが読み上げるのはちょぉっと良心が痛むからぁ、ここは“コメント読み上げ君”を使わせてもらおうねぇ★」
『キーボードを叩く前に鏡を叩き割れよ』『存在がスパム』『やばすぎわろた』『即ブロック安定。もうしてたわ』『プロフ、全部コピペじゃね?』『アーカイブ見てきたけどおもんな』『魅力ゼロバイト』『チャンネル登録者のみんなー、見てるー?』『断罪して、どうぞ』『被害者カワイソ』
「じゃあ、ここからは、ちゃんみのアタックチャーンス!
ちゃんみ宛に、金くれ!」
『ちゃんみ!』
『ちゃんみに一万円』
『ないすぱー』
『ちゃんみの活動、応援してます! 少ないですが活動費、どうぞ!』
『(コメントなし)(十万円)』
『うわ』
『石油王!』
『きちゃーーーーーーーー』
『今日は遅かったな』
『この瞬間のためにリアタイしてる』
「いつもありがとうねぇ★
では、お聞き苦しい音声が入ってしまうのを防ぐべく、マイクはオフにしてお別れといきましょう!
いつも通り、妄想で補うんDa!
次回の『デッドオアライブ』をお楽しみに!
ばっははーい!」
1LDK 秋乃光 @EM_Akino
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