本能

南フランスは素晴らしいの連続だった。

婚前旅行で来たことはあるのだが、もう一度妻をここに連れて来たかったとルイスは思った。


コートダジュールの高級ホテルで、食事を楽しんだ二人は穏やかな夕暮れを眺めていた。


ルイスはレアの肩に手を伸ばそうとし、そっとその手を引っ込める。

夕日に照らされて美しさを際立たせたレアが彼を振り向いた。

「なぜ、肩を抱かないの?」

愛くるしい瞳で彼女が見つめる。

娘だ、娘なんだと言い聞かせて留まるのにギリギリのラインだった。

そのラインを越えてしまえば、自分は自分じゃなくなる。

ルイスは苦悶の表情を出さない様に

「何だか照れくさくてね」

と何とか声を出した。


レアは座って居る場所を少しずらしてルイスにピッタリと体を寄せる。

そしてサラサラの、人工とは思えないその髪を香らせ、頭をルイスの肩に乗せた。

「わたし。あなたが好きよ」

それは父親に向けての声では無かった。

彼の理性がグラグラと揺れる。

「ルイス。あなたはわたしの生みの親。でも、わたしにとっては、世界でたった一人の愛せる人。それは間違いないわ」

乗せていた頭を起こして、レアはルイスを真っ直ぐに見つめた。

「ねぇ。キス、して」

彼の心臓がドクンと跳ねる。

レアは目を閉じて、彼の答えを待っている。


 (駄目だ、ルイス。彼女は娘。彼女はアンドロ

 イドだ。本気で恋心など抱いてはいけない)


必死で呼びかける彼の心は、レアに無意識のまま唇を重ねる事で音もなく消えていった。


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