第11話 動乱
部屋を出たユウタの耳に聞こえてきたのは,城のあちこちから上がる悲鳴だった。
ユウタは,魔道具置き場の面する廊下の突き当たりを右に曲がった。
その通路には,手洗いや掃除に利用する蛇口がいくつも設けられている。
丁度,城の掃除をするメイドが,バケツに水を汲もうとしたところだったのだろう。メイドの女性が,カナと同じような泡に包まれて,身動きが取れなくなっていた。
ユウタは,咄嗟に,バブルが『バブル人形』と呼んだぬいぐるみがないか,あたりを見回したが,どこにも見当たらなかった。
「大丈夫ですか!」
ユウタが急いで駆け寄ると,メイドは軽いパニック状態だった。
「今,水を汲もうと蛇口を捻ったら,いきなり泡が出てきて,気付いたらここで身動きできなくなっていたんです!」
「蛇口からも魔法を出せるのか・・・」
ユウタは,メイドに,助けを呼んでくる旨を伝え,また走り出した。
城の内部のあちこちで,人が泡に捉えられていた。
泡が発生したのは,城の複数箇所に置かれていたバブル人形に加えて,水場や洗面所に設けられた蛇口からだった。
どうやらバブルは水系統の魔法を得意とし,ぬいぐるみや水場から,魔法の泡を精製することができるようだ。
ユウタは,城の一際大きな通路で,深刻な顔つきのダビデに出くわした。
「ダビデさん!」
ユウタが話しかけられても,ダビデは考えごとをしていて,ユウタへの反応が遅れた。
「ああ,君か。
どうしたんだい?」
「カナが,変な泡の中に閉じ込められてしまって,出られないんです!泡を発生させたのは,魔道具置き場の隅に置かれていた変な人形で,その人形が,バブルの声で,もうじき泡は爆発すると予告してきたんです!」
「ああ,そのことか。
私も,先程から事態の確認を急いでいるのだが,どうやら,この城中で同様の泡が発生しているようだ。
泡はおもに城中にいつのまにか置かれていたぬいぐるみ,もしくは上水道の蛇口から発生している。
私が把握しているだけでも,120カ所で合計150人が閉じ込められている」
「あのぬいぐるみは,バブルの声で話していました」
「ああ,私もぬいぐるみが喋るのを聞いた。
現状を確認するため私の部下が城を捜索中だが,バブルが急にいなくなったと先ほど報告を受けている。信じたくはないが,バブルがこの一連の事件の犯人かもしれない」
その時,通路の向こうから,軽装を身に纏った兵士2人が駆けつけてきた。
「ダビデ様,バブルの居所が分かりました!」
「本当か?
バブルは今,どこにいる?」
「地下です」
「地下?城の地下のシェルターのことか?」
「いえ,そのさらに下,この城に水を引いている地下水路の一角にいる,と軍の感知魔法の使い手から報告を受けています」
「そうか。では,今すぐ向かおう。付いてこい」
「「はっ!」」
「待ってください!」
足早にダビデ達が立ち去ろうとしたので,ユウタが声をかけた。
「僕も,つれて行ってください」
「止めておけ。バブル1人なら,私たちでなんとかなる。それに,君のような庶民に助力を頼むほど,我が軍は落ちぶれていない」
「バブルは,先日の剣術稽古の際,一瞬でしたけど,頭から角を出していました。もしかしたら,バブルは魔族かもしれない」
「ああ,実は,私もあの時,奴の頭部から突き出した異形を目にしていた」
やはりダビデも,あの時バブルの頭部から突き出したものが魔族の象徴である双角だと思っていたのか。
ユウタには,更なる疑問が湧き起こってくる。
「じゃあ,なんでバブルを放置したんですか?バブルが魔族と分かっていたなら,早めに打つ手もあったろうに・・・」
「私から詳細は言えない。しかし,ユウタ,事態は君が思っているより深刻だということだ」
ダビデはそう言うと,ユウタを置き去りにして,部下と共に通路の向こうに行ってしまった。
ユウタはそれから1時間ほど城中を駆け巡ったが,城のあちこちで泡の牢に閉じ込められた人を何人も見かけるだけで,カナを助け出す手がかりを持つ人には出会えなかった。
パーティカースト最下位の魔王の息子 @tomoyasu1994
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