第10話 泡

 翌日,ユウタはカナに呼ばれて,城内にある魔道具置き場に行った。

 カナによれば,ここはベルセルク王国の魔法使い達が使用する魔法アイテムの置き場であるそうだ。この城にいる間,彼女はここに置いてある魔法アイテムを自由に使う許可を,城の管理者からもらったそうだ。

城で軟禁生活を送ることに最初は不満を漏らしていったカナだったが,城の魔法アイテムを自由に使っていいと言われると,途端に水を得た魚のように目を輝かせた。

 魔道具置き場は,今までほとんど使われていなかったようで,ユウタ達が部屋に入った瞬間,床に積もっていた埃が宙を舞った。

 ユウタは,カナに指示されながら,部屋に積もった埃を,箒を使いながら掃いていった。

「この国の最高レベルの魔法アイテムに触れられるなんて,感激だわ!」

 嬉々として部屋を掃除していたカナがいった。

「でも,カナ,この部屋,ずいぶん長い間使われてないみたいだね」

「そりゃあ,私たちが生まれてから,ベルセルク王国は一度も戦争をしていないからね。平和はいいことよ」

 カナが魔法アイテムを熱心に観察する様子を見ながら,ユウタは,彼女が根っからの魔法使いなんだ,と改めて思った。消去法で何となく魔法使いになった自分と彼女は違う世界の人間なんだ,とユウタは思った。

「でも,僕たちが生まれる前は,この国はずっと戦争してたんだよね?なんでそんなに戦争が好きなんだろう?」

「ユウタは世間知らずね。誰も,好き好んで戦争なんかしないわよ。この国の国土は、元々農業に不向きだし,外国に輸出できる資源もなかったからね。

 国として独立していくためには,他国から資源や物資を奪うしかなかったのよ。

 先代の王様が,魔法技術の開発に力を注いでくれたおかげでようやく・・・きゃっ!」

 カナの叫び声を聞いて,ユウタは箒を掃く手を止めて,カナの方を見た。

 カナは,大きな薄い膜に包まれていた。その膜はよく見れば,大きな泡だった。

「泡?どうして?」

 ユウタは,目の前の光景に困惑した。

 カナの声が,泡越しに,くぐもって聞こえてくる。

「そこの魔法アイテムが急に起動して,気付いたら泡に包まれてたの!」

 ユウタがカナの指差す方を見ると,小さなこびとのぬいぐるみが置かれていた。ぬいぐるみの口にあたる部分が,わずかに開いている。。ユウタは,この隙間から,泡が噴出したのだと思った。

 カナは,泡の内側から泡の膜を打ち破ろうとして,勢いよく泡に爪を立てた。

 しかし,泡の表面は,まるで分厚い脂肪の膜のように,カナの爪を弾いてしまった。

 カナは,続けて泡に向かってパンチしてみたが,それでも泡は破れない。

「このっ!このっ!だめね,全然泡が破れない。しかもこの泡,すごい力で床に張り付いてる。ここから動けないわ」

 ユウタは,持っていた箒の柄を両手で掴んで,中段に構えた。

「カナ!受け身を取って!なるべく君に当たらないようにするから!」

 ユウタはそう言うと,箒の先を思い切り泡に叩き付けた。

 ユウタが箒を叩き付けた瞬間,泡の表面が波打った。その波は,カナを包む泡全体に波状に伝わっていった。そして,その波は,ユウタが叩き付けた時よりもずっと大きな波となって,箒を叩き付けたところに戻ってきた。

 箒を押し返す強い衝撃が,箒の先からユウタの手に伝わってきた。

 ユウタの手から,箒がはじけ飛んだ。

 ユウタはその衝撃で,後ろによろめいて尻もちをついた。箒は,ユウタの手を離れ,部屋の隅に転がっていった。

「くそっ!衝撃を弾くのか!普通の泡じゃないな!」

「ユウタ,魔法よ!この泡,どうやら強力な魔法よ!魔法だったら,同じ魔法でどうにかなるかも!私に向かって,魔法を唱えて!」

「そんな,もしカナに当たったら・・・」

「わたしは,へーき!こんなこともあろうかと,魔法耐性のあるローブを着てきているから!それより,この泡,なんだか,ただ身動きを取れなくするだけのものじゃない気がするの!」

「分かった」

 ユウタは,辺りを見回して,壁に立てかけられている杖を発見した。

 杖をカナに向けて構えると,呪文を唱えた。

「フリーズ!」

 ユウタの杖から目で見えるほどの冷気が発射された。

 それが泡に触れた瞬間,泡が勢いよくたわんだ。そして,次の瞬間,ユウタの放った冷却魔法が,ユウタめがけて飛んできた。

「うわっ!」

 ユウタが慌てて横飛びでよけると,ユウタのいた場所が凍り付いた。

「そんな,魔法も弾くなんて・・・」

 ユウタが悲痛な声を上げた。

「プクプク,装置が起動したようでちね」

 こびとのぬいぐるみから,どこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。

「この声は,バブル!」

 こびとのぬいぐるみから聞こえる声は,なおも喋り続けた。

「今頃,城中のあちこちに僕が仕掛けておいた『バブル人形』が起動しているはずでプク。この装置は,人間をその場から動けないようにして,しばらくした後に自爆する泡を精製するものだプク。

 この泡は僕の力のおかげで,あらゆる衝撃や魔法をはじき返すでプク。

 え?剣の先を突き立てたらどうかって?

 プクプク。やってみたらいいでプク。泡の中に閉じ込められた人間の命がどうでもいいのなら,プクね」

 大笑いするバブルの声が聞こえた後,ぬいぐるみは喋るのを止めた。

「うそ・・・この泡,爆発するの?」

 カナが動揺して呟いた。

 ユウタは,自分たちだけでこの状況を切り抜けることは困難と判断した。魔道具置き場を出て,城の中の誰かに助けを呼ぼうとした。

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