最終話 ずっと

 翌日の昼休み。


 私が一人でトイレに行って、教室に戻ってくると、燐のところに美嘉先輩がいた。


 昨日と同じ。


 二人は楽しそうに話していて、燐は私が戻って来たのを見ると、遠慮したような、気まずさを感じさせてくれる顔を作った。


 美嘉先輩もそれをすぐに察して、燐の視線の先、つまり私の方を見てくる。


「あっ! 夜崎! こっちおいでよ!」


 どんな反応をされるだろう。


 そう思って私も少し身構えていたけれど、先輩は私の不安をかき消すようにして名前を呼んでくれた。


「部活辞めてからあんたとちゃんと話してなかったんだ! こっち来な! こっちこっち!」


 元々、燐を責める気持ちなんてもう微塵も無くて。


 想いを伝え合えた私たちは、この後普通に昼休みを楽しむつもりだった。


 燐が美嘉先輩と話をしていても、私は気にしない。


 そう思いながらいたけれど、まさかこうして私自身も誘われるとは思ってもいなかった。


 何もかもが杞憂で、私は一人で何かと戦っていたような気がして、警戒していた自分を笑うようにしながら歩を前に進めるのだった。






●○●○●○●






「結局美嘉先輩、ただのいい人だったんだね」


 昼休みが明けて、午後の授業も終わった放課後。


 学校を出てからすぐのところで、隣を並び歩いていた燐に私は語り掛けた。


「美嘉さんはいい人だよ。ていうか、私の周りに悪い人ってそんないない」


 苦笑いしながら言う燐。


 けれど、と続ける。


「瑠乃の言う『悪い人』って、私が考えてる『悪い人』とまた違った意味だよね?」


「……え?」


「私を狙ってる人、っていう。そんな意味じゃない?」


 浮かべていた苦笑は、少し意地悪なモノに変わっている。


 私は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。


 燐の方を見ていられない。


 恥ずかしくなって、彼女から目を逸らす。


 燐はそんな私を見て、クスクス笑った。


「瑠乃は本当に独占欲が強いんだから。モテモテの私は自分の身を守るのが大変だよ」


「……別に私は悪くないもん。言い寄られる燐が悪い」


「じゃあ、これから私はずっと瑠乃にくっ付いておこっかな? そしたら誰にも言い寄られないだろうし」


「それは歓迎。でも、近くにいられ過ぎても困るかも」


 私がそう言うと、燐は「わがままだなぁ」なんて言って、笑いながら返してくる。


 だって、仕方ない。


「近くにいられ過ぎると、キスしたくなるから」


「……へ?」


「今だって抑えてるんだよ? 本当なら、路地裏にでも連れ込んでキスしてる。私、今キス欲を必死に抑えてるんだから」


 恥ずかしさはある。


 あるけど、私が遠慮なく顔を燐の方へ近付けて言うと、彼女は一気に頬を赤らめて、私の方から逸らした。


「い、いきなり何言ってるの……? キス魔じゃん……」


「うん。キス魔。けれど、それは燐専属のキス魔だよ。燐が可愛いから悪い」


「横暴過ぎるって……」


 人の行き交う普通の道。


 さすがの私もここで堂々とキスなんてできない。


 できないから、代わりに燐の手を握りしめた。


「あっ……ちょっと瑠乃……」


「ようやくこうしていられるから。……少しだけ、ね?」


 小首を傾げるようにして言うと、燐は渋々私を受け入れてくれた。


 でも、それは嫌そうっていうわけではなくて。


 顔を逸らすことで顕になった耳は真っ赤になっていて、向こうの方に見える夕陽と遜色ない。


 私が部活を辞めた理由。


 それは、燐と他の誰かが仲良くしているのを見るのが嫌で。


「……燐……これからも……ずっと……」


 傍にいる燐と深く、深く想いを伝え合えるような。


「大好きだから……ね?」


 そんな恋人になりたいから、だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【百合】恋の練習をするだけだった二人がどんどん深みにハマっていく話 せせら木 @seseragi0920

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ