第7話 立て直し

「……そうか。報告ご苦労。念の為、撤退援護に回ってくれ」

「了解」


 報告に来た哨戒チームのリーダーが執務室を後にした。


「マジか……」


 彼らが負けたことに自分でも驚くほどに動揺している。

 絶対に負けないと思ったわけではない。寧ろ量産機なのだ。やられ役の代名詞のような存在なのだから尚の事、想定できていた。

 それなのに、胸の寂寥感は消えてくれない。


「ご主人様」


 むにっと頬を引っ張られる。

 そこにいたのは、いつものように俺を甘やかし、笑顔をくれるメイドではなく、その瞳に強い光を宿し俺の背中を支えようとしてくれるセシリアがいた。


「しっかりなさいませ。今は、項垂れている場合ではありませんわ」

「……そうだな」


 確かに、こんなところで立ち止まっている暇はない。報告では確か、イエローの腕が完全に破壊されたと聞いている。


「マナクリスタルを準備しよう。交換用の腕を作らなきゃ」

「はい。ご主人様」


 ついでだ。他のパーツも一式作って気持ちを落ち着かせよう。


─────────────────────


「うおおおおお!腕が戻ったぁぁぁぁぁっ!」

「馬鹿野郎お前っ!心配させやがってこの野郎!!」

「無事に戻ったのなら、それが一番だ」

「まったく。ヒヤヒヤさせないでくださいよ」

「悪かったな、ブルー!本当に心配かけた!」

「すみません。私も早く見つけていれば……」

「いえ、グリーン。あなたより反省すべきはそこのお調子者と突撃馬鹿です」

「申し訳ありませんでした!」

「あそこで突っ込まないとイエローがブッ壊れると思いましたごめんなさい!」


 襲撃されたゼクス率いるレインボー01部隊はなんとか全機生存していた。

 一番被害が大きかったイエロー03は左腕が完全に壊れていて、肩からパーツを交換することになった。

 腕を取り外したときに見えたボールジョイントにプラモの名残を感じさせたように、腕の交換もまたプラモの時と同様の作業で行えた。

 つまり腕をただ外して換えの腕をはめ込むだけだ。

 神経のような物は見えなかったが、それだけの作業で関節から指まで自在に動かせているのだから不思議だ。


「他の機体との互換性を考慮して、交換用の腕は敢えて白にしたんだが、同じ色のパーツを用意できなかったのは悪かったかな」

「仕方有りませんわ。わざわざ塗装ブースなんて作る暇も余裕もありませんでしたもの」

「むしろ部隊にとって良い戒めになります。そのままで良いかと」


「見ろよこれ!この純白の肩はなんか特別って感じがしないか!」

「確かに。パッチワークみたいで戦場の偶然を感じさせて良いと思う」

「イエロー、それはあなたの失敗の証なのだから寧ろ恥じなさい。オレンジも便乗してロマンを語らない」


「……そのままで良いかと」

「ご主人様。折角なのでテセウスの船、試してみます?」


「それじゃあイエローじゃなくてホワイトにっちゃうぜあねさん!?」


「ハハハ」


 敗北という苦い経験をした直後だというのに、それを感じさせない彼らの明るさが、今は何よりもありがたい。

 反省は必要だが、人的被害はなかったのだ。

 ここから再び前を向くためには、これくらいの雰囲気の方が、きっと丁度いい。


「しかし巨大な人型か……」

「はい。背丈は我々の約一・五倍ほどあり、筋肉質な体躯をしていました」

「まさにオーガ、ですわね」


 ゼクスからの報告を聞いたが頭が痛い。

 彼らが敗走した大きな原因は、その巨体からくるパワーもさることながら、それ以上にこちらの決定力がかけていたことにあった。


「バリアがあったと?」

「はい。敵の体を覆うようにありました」


 ゼクス曰く、ライフルによる射撃も、エネルギーサーベルによる斬撃も、そのバリアに阻まれ、オーガに傷一つ付けることができなかったらしい。

 攻撃を試みた者たちの言葉を借りれば「まるで、見えない強固な壁にぶつかったようで、手応えすら感じなかった」とのことだ。

 腕力だけでも十分脅威なのに、そんな厄介なバリアまで備えているとは。

 まさに鬼に金棒だ。


「唯一、レッド01の武器のみ。オーガにダメージを与えられました」

「彼の武器は確か実体剣だったな。物理攻撃主体ならば通用する?」

「と言う単純なものでもなさそうです。レッド01の武器もかすり傷程度が限界で、そのまま破損してしまいました」

「つまり、バリアでガードを固めているくせに、皮膚だけでそんじょそこらの鎧より頑丈だと。ふざけてるな」


 ここに来て火力不足が課題になるとは。


「私のオルトロスでお相手しましょうか?」


 どこかワクワクとしながらセシリアは言う。


「厳しいかと。

 奴の俊敏さも侮れませんし、相手は1人だと限りません。1体を削っている内に他の個体が迫ってくることも十分考えられます」

「すばしっこい上に、蟻より面が広い分、複数をカバーするのも難しいと」

「残念ですわ」


 しかし曲がりなりにもウチの最強火力でも厳しいとは。

 どのように進めるべきか……


「司令官。我々の装備では有効打を与えられません。新たな武器か、仲間を呼べ出せないでしょうか?」


 ゼクスがそう提案する。実際、打開策としてはそうなるだろう。


「具体的には?」

「例えばですが、魔法使いのような火砲を持つものはどうでしょう?」

「魔法使いかー……」


 頭を捻って考えるが……うん。何度思い返しても作ったことはないと結論が出る。

 俺の好みの問題もあるし、プラモ自体機械系の商品が多い。

 仕方ないのだが、こんな場面に出くわしたらなんで探さなかったと過去の自分を責めたくなる。俺も未来からそんな恨みを抱かれるとは思うまい。


「ご主人様。超能力はどうです?」

「超能力?」


 セシリアが提案するが、いたっけ?


「ほら。確か……星界の騎士ってお話ですわ。アストラルと言う力がありましたわよね?」

「ああ、あれか」


 アストラルか。確かに超能力って呼んでも差し支えないな。炎出したり雷放ったりしてたし。


「確かに作ってたな。アッシュだけ」


 アッシュ・ゼルヴァイザー。SF作品『星界の騎士』の主人公で、最終的に作中最強の戦士となる男だ。

 星界の騎士は作中に登場する集団の名前で、大きな特徴としてアストラルという力を用いて戦っていた。

 アッシュも物語当初はそこに所属しており、様々な能力を身に着けており、作中で披露していた。

 もっとも、最終的には小細工など不要とばかりに己の剣技と身体強化のみで戦ってみせたが、逆にそれが圧倒的強者感を醸し出していた。

 その姿に惚れ込んだものも多く、俺もその1人だ。

 だから彼だけ買って作った。他はお値段の関係とかでちょっとね?


「確かに今ある手札で最適解に近いか。アストラルは物理攻撃だけじゃなく火炎に電撃何でもござれだったしな」

「以前の懸念点でした食料の安定供給も、今は大丈夫かと」


 今は食堂に食事用自販機が並んでいる。バリエーションも豊富だったのである程度は問題ない。

 ちなみにマナクリスタルを別に充填する必要があり、それを材料に食事を作っているようだ。中身を野菜とかの調理前の食材に出来ないのが残念だ。


「ならば、彼にしよう。ゼクスはどう思う?」

「星界の騎士……アッシュ……なるほど、彼の力があれば、行けそうですね」

「決まりですわね」


 こうして俺達は新たな仲間を迎え入れる事を決めた。

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