史上最強のS級冒険者に育てられた少女、冒険者ギルドの受付嬢になる~クソスキルで役に立たないから追放? ダンジョンに放置? そんな冒険者は成敗します!~
第6話 少年冒険者、赤ずきん(クレアン)に惚れる
第6話 少年冒険者、赤ずきん(クレアン)に惚れる
翡翠を翼を追放されたリベルは王都の酒場の席に座っていた。
その手にはクレアンから渡された紙が握られている。
「ここのはずだけど……」
手紙には指定の日時他、こう書かれていた。
――王都の酒場『ファイアベル』で待っていてください。
お話をしましょう。
(まさかあの子が僕に? いやいやいや……)
リベルは胸を高鳴らせて今までの人生を振り返る。
自分は生まれこそ恵まれていなかったものの、シスターの愛を受けて育った。
字の読み書きまで教わって生きていく分には困らない教養を授けてもらった。
そんな自分に春まできていいのかと盛大に勘違いしている。
(ぼ、僕が……女の子と……)
14歳のリベルにガールフレンドなどいない。
まるで異性に免疫などない彼は気が気ではなかった。
「いらっしゃい。奥へどうぞ」
酒場の店主がぶっきらぼうに来店客を口頭で案内する。
リベルが急いでそちらを見ると心臓が掴まれる気分になった。
「あ……!」
それは翡翠の翼の三人だった。
リベルは恐怖のあまり席を立つ。
(か、顔を合わせたら何をされるか!)
リベルは心臓を高鳴らせながらも酒場から出ようとする。
しかし翡翠の翼の三人とすぐに目が合ってしまった。
「リ、リベル……」
「ウェルトさん……」
リベルは脂汗を流していた。
殴られ、蹴られた日々を思い出してしまう。
よりによって再会なんてしようものならさぞかし怒るに違いないと萎縮して身を縮めた。
「すみま……」
「悪かった!」
ウェルト達が店内でリベルに土下座をした。
リベルはウェルト達の後頭部を見つめたまま動かない。
「か、金とか色々! でも持ち物は売って金にしちまったんだ!」
「ウェルトさん……?」
ウェルトが立ち上がってテーブルに硬貨をぶちまけた。
その量はリベルが持っていかれた時よりも遥かに多い。
「ウェルトさん、どういうことですか……?」
「か、返したからな!」
ウェルト達はリベルの質問に答えずに店から足早に出ていく。
リベルは何一つ理解できないままウェルト達がぶちまけた硬貨を道具袋に入れた。
手元には十分すぎる生活資金がある。
(これはもしかして……)
リベルは一つの結論に至った。
* * *
「聞いたか? 翡翠の翼が昇級試験を蹴ったってよ」
冒険者ギルド内では同じ話題で持ち切りだった。
地竜グランディスト討伐に成功した翡翠の翼にB級への昇級試験の案内が通達される。
ところが翡翠の翼が昇級試験を見送ったと冒険者達に伝わっていた。
「グランディスト討伐なら間違いなくジャイアントキルだろう」
「なんでもリーダーのウェルトはこれは自分達の手柄じゃないとか訳のわからないことを言っていたらしいぜ」
「なんだそりゃ。じゃあ誰の手柄だってんだ?」
「そんなの知るかよ」
クレアンはその噂話を耳に入れながら業務に勤しむ。
笑顔を絶やさず、ウェルト達の昇級試験見送りの話を聞き入れたのは彼女だ。
クレアンはグランディストを討伐した後、ウェルト達にこう囁いた。
――グランディスト討伐はあなた達の手柄。
それは冒険者ギルドに報告していい。
ただしリベルさんから奪ったものを自分達の手で返して。
そしてちゃんと謝罪して。
指定の日時にリベルさんが王都の酒場ファイアベルへやってくる。
もし約束を破ったらわかってるよね?
ちゃんと見てるから。
「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ!」
「こんにちは!」
クレアンが受け付けたのはリベルだ。
身なりが清楚で清潔なローブで整えられていて、冒険者の何人かがオッとばかりに注目する。
「リベルさん、こんにちは! 今日はどのようなご用件ですか?」
「今日はクレアンさんにお話があってきたんです」
「お話ですか?」
「はい、今日はこちらをお渡ししようと思って……」
リベルがクレアンに握らせたもの、それは手紙だ。
クレアンはそれを少しだけ開いて確認しようとしたが――
「それは後でお願いします!」
リベルはそれだけ言い残して立ち去った。
隣の受付カウンターにいるラナも訝しむ。
(なんだろう?)
冒険者ギルドの昼、職員達は交代で食事休憩に入っていく。
クレアンも受付を離れて休憩室の椅子で一息ついていた。
昼食は自前の弁当ということで紐解いて食べようとするが――
(リベルさんからのお手紙、忘れるところだった!)
クレアンはリベルからの手紙を広げて読んだ。
――先日はありがとうございました。
指定の場所で待っていたところ、僕は気づかされました。
あなたがやってこなかった理由、それは僕への叱咤です。
ウェルトさん達に物を奪われているような軟弱な人間が
あなたに相応しいわけがない。
女の子から手紙を受け取ったくらいで舞い上がるな。
いつの日か成長した時、会いにいく。
あなたはそう言いたいのでしょう。
そういうことなら僕は精進を続けます。
いつかあなたに相応しい人間になれる日を願って。
リベルより。
(な、なぁにこれぇ!?)
クレアンは手紙を弁当を食べながら何がいけなかったのか考える。
(ボロが出たら嫌だから簡潔に書いたのに……)
さすがのクレアンも自分がやっていることがバレたら終わりだと自覚している。
自分はどうなっても構わないが冒険者ギルドに迷惑がかかるのは避けたい。
だからリベルと会う約束を取り付けてから酒場に呼び出して適当に会話をする。
そこへ偶然翡翠の翼がやってきたという流れを想定していた。
ところがクレアンが到着する前に翡翠の翼が予想以上に早く到着してしまう。
クレアンは酒場の入り口からそっと翡翠の翼とリベルのやり取りを見ていた。
すべてが解決した後で登場しようとしたのだが、リベルがその場で胸に手を当てて顔を赤らめているのを見てしまう。
少し怖くなったクレアンはすっぽかして帰ってしまった。
(すごい勘違いさせちゃった……リベルさん、誤解! 誤解だってぇ~~~!)
クレアンは息を大きく吐いてからもう一度だけラブレター、ではなくて手紙を見た。
(機会をうかがって誤解を解かないと……私はリベルさんじゃなくて冒険者さん一筋なの……)
そのリベルも冒険者なのだが、と誰かがクレアンの心を覗いていたら突っ込むだろう。
手紙をカバンに入れてから食べ終わった弁当箱を片付けて、頬を両手でパァンと打つ。
「よし! 今日も冒険者さんのためにお仕事!」
クレアンはエイエイオーと気合いを入れてから受付に向かった。
彼女が走り去る後ろ姿をとある人物が見つめている。
(やはり彼女を招き入れて正解だったな……)
その人物は満足そうに頷いて立ち去った。
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