第16話 国王様の休息……神殿での食事会
まったく……。
何が悲しくて帝国のいかついまるで壁のような大男の相手をしなければならんのだ。
無骨さも行き過ぎるとただの無礼にしか感じない。
なにせ社交辞令もなく、季節の挨拶もなく、ただただ突然やってきては要求を述べてくる。
それも普通なら受け入れるわけがないようなものばかり。
「貴国の北部にある鉱山を譲れ」
「貴国の南東にある港の所有権を渡せ」
「貴国を縦断している河川に商業船を通させよ」
我々は戦争に勝ったのであって、貴様らは負けて敗走したのだ。
主権を蔑ろにするような主張を認めるわけがないだろう?
もしそんな主張を通したいなら、もう一度挑んで来い!
けちょんけちょんにしてやるわい!!!!!!
などと言えればいいのだが、勝ったのは聖女の力のおかげ。
さらに近隣国を全て抑えられてしまっている。
帝国からすれば我が国も武力でサクッと片付けて周辺一帯を属国化し、都合の良い時に物資や金、そして兵力を供給させたかったのだろう。
それが我が国だけが生き残った。
他にあった7つの国は滅ぼされたか、属国と言う言葉が可愛く思えるような悲惨な奴隷国家にされてしまった。
我が従姉妹が嫁いだ国は最後まで抗ってしまったせいで王家は軒並み酷い目にあわされた後に処刑された。
我が国と長らくそりが合わなかった国はさっさと降伏したものの統治を楽にするためだけに王家や高位貴族は皆殺しにされた。
帝国は国内の分断を煽ってくる。
わかりやすく権力者を敵に仕立て上げ、そこからの解放を謡う。
待っているのは搾取にもかかわらず……。
まぁ、横暴な貴族が酷い税をかけたり気分次第で召し上げていくのと、帝国が酷い税をかけたり徴発してくるのと、一般の国民から見たらどっちも同じかもしれないがのう。
そしてその酷さを比べた際に、強国となっていく帝国の方が未来が明かるように見えるのじゃろう。
我が国に攻めて来たのも、大半はこれらの国々から強制的に徴兵された者達だった。ハルキナという元隣国の都市に集められ、そこから攻めてきた。彼らの目はやる気に満ちていたし、帝国から与えらえた特権。つまり、戦争相手国には何をしても許されるということで、彼らに敗れた砦や村は絶望的な状況に追い込まれた。
今は淀みと魔物による攻撃によって敗走してまたその都市に戻っているようじゃ。
そして戦力を回復させつつ、時間稼ぎなのか、受け入れられたら儲けものとでも思っているのか、要求を述べにその都市の責任者となっている将軍とやら使者がやってくる。
悲惨な状況から救ってくれた聖女であるアリア殿には本当に感謝してもしきれない。恐らく、貴族以外の国民を人扱いしていないバカな貴族以外は皆感謝しているじゃろう。
アリア殿の力によって帝国軍を敗走させ、今もアリア殿を警戒して帝国軍はやってこない。
だからこそアリア殿はあれ程までに騎士団や魔導師団、そして一般国民に人気があるのじゃ。
なぜかそれをアリア殿自身が感じておらぬのじゃが……。
あと、バカな貴族共は結局これを理解していない……。
アリア殿は聖女としての自らの尊厳に抗って力を使ってくれたのじゃ。
もし許されるなら出張してその都市を壊滅させてほしいなんて言ったらアリア殿にもアーサーにも……それどころか神殿関係者すべてに軽蔑されそうじゃから言えぬがな……。
少しずつバカを排除し、能力ある平民を昇進させ、権限を与えて国の改革を成す。
それが成るまでは帝国の要求は適当にかわし続ける。
それがこの国にできる唯一のこと。
我が国は歴史は古く、国の体制的には周辺国への依存は少ない。
だからこそ、周辺を全て抑えられた酷い状況でもなんとかなっている。
これが食料や何らかの資源で依存している先があったとしたら、もっと早くに息絶えていたかもしれない。
というか、帝国自身が攻めて来なくても輸出入を止められただけで死んでいた。
わがままな貴族たちを抑え込みさえすれば自国内で経済を回せる状態でなんとか保たれていたことだけは先祖に感謝してもいい。
もちろん、貴族たちからの不平不満は酷いが。
不満を言うなら高い金を払って輸入すればいい。
もしやる家があったら関税で倍額とかにして、金を巻き上げる良い機会にしてやろうとは思う。
騎士団と魔導師団を完全に掌握できたことで、その組織を有効な形に再編した。諜報部隊なども今はしっかり機能しているから、不正は見逃さぬ。
やりたければやってみろ。むしり取ってやる。なにせこちらとしてはほぼすべての貴族を滅ぼしたいくらいなのだ。
「招待、感謝する」
今日は神殿長から誘われての食事会の日じゃ。
まぁ、神殿主催と言うのは建前で、実質はアリア殿とその婚約者となったアーサーが開いてくれたのじゃろう。
仲睦まじく、そして余のことも許してくれておるようでありがたい限りじゃった。
「ようこそお越しくださいました、国王陛下」
「父上、お疲れのようです。どうか今だけでも気を楽になさってください」
その証拠に、主催者として迎えてくれた神殿長の隣にアーサーが立っている。
そして……
「"聖なる安らぎと癒しを"……今日はお越しいただきありがとうございます、陛下」
「あぁ、アリア殿。ありがとう。気分が楽になった」
聖なる力を纏ったアリア殿が優しい光を余に向かって放ち、その瞬間に疲れが吹っ飛んで行った。
本当にありがたい。
「今日は親しいものだけを招いております。どうぞこちらへ」
「ありがとう」
神殿長は質素ないでたちじゃし、口数は少ないが、その溢れる気品、そして荘厳な態度はとても居心地が良いものじゃ。
バカな貴族たちに見習わせたい。
余計な腹の探り合いはなく、騙し合いもない。
面倒な誘いもない。
あるのはもてなしと敬意。
貴族たちや帝国との闘争を本気で忘れて浸れる時間じゃ。
「アリア殿とアーサーのことを改めて祝福したい。同時に、エリオット、そして貴族がやったことを謝罪する。申し訳なかった。神殿を巻き込んだことも謝罪する。この通りじゃ」
心の底からそう思う。
この場で取り繕う必要はない。
謝罪する良い機会じゃ。
もちろんアリア殿には何度も謝っておるが、アリア殿をこの国に留めるためなら何度でもやる決意じゃぞ?
「国王陛下。この場で安らぎを感じて頂けるなら、それはとても良きことです。ただ、1つだけ、神殿としてお願いがあるので、そこは先にお話しさせていただきたい」
席に着いたとき、神殿長が予想外のことを言いだした。
なにせこれまで長きにわたって神殿はずっと政治にも軍事にも関与せず、貴族ともあまり深く交わらずにやってきた。
他国の噂に聞く、金に汚い神官の話は我が国には当てはまらない。
しかし、このタイミングでの要望となると、なんだろうか。
もしかして処分した貴族の中に、神殿関係者がいただろうか?
……いや、ないな。
どんな統制上の秘密があるのかと聞いてみたくなるほど、神殿の要職にあるものとその家族は他の貴族の悪辣さとは無縁の生活をしていた。
むしろ、一応でも神殿と協力関係を築いたりしている貴族共が全くもって高潔で清らかな神官たちの影響を受けていないこと、逆に神官たちが腐りきった貴族の悪い影響を受けていないことが不思議でならなかった。
「なんじゃろうか? 神殿長の婚姻の際にはもちろん全力で祝辞を述べさせていただきたいと思っておるが……」
お願いされるようなことに本当に心当たりがないので、冗談交じりに応えてみるが、神殿長は全く表情を変えない。
うむ……完全に滑ったのう……。
「お願いと言うのは、今後、帝国の使者を国に迎え入れないでほしいということです」
「はっ?」
そしてやってきたのは予想外の要求じゃった。
帝国の使者が神殿と何か関係があるのじゃろうか?
しかも、帝国の使者と会わせろというのではなく、それは国内に入れるなということじゃろうか?
えっと……。
「神殿長。相手は勝手にやってくるので、国王陛下が招いているわけではありませんが……?」
「やはり、招いているわけではないのですね。であるならば問題ありません」
「えっと、それはどういうことじゃろうか?」
予想外の要求に回答に詰まってしまった余に代わってアーサーが答えるが、神殿長の反応は申し訳ないが理解できぬものじゃった。
帝国の使者がうっとうしいのは間違いないが、神殿が気にするようなことでもないのではないじゃろうか?
「なに、簡単な話です。彼らは悪意……つまり"淀み"に包まれております。せっかく国内はアリア殿のおかげで清浄に保たれているのですから、乱してほしくないのです」
「はぁ……」
理由を聞いても反応しづらいのぅ。
穢れておるから入ってくるななどと通告したら、喧嘩を売っているようなものじゃし……。
「なに、陛下が招いているのではないのであれば……相手が勝手に来ているだけなのであれば、入れなければ良い話です。アリア殿。お願いできますか?」
「私ですか? えっと……どうすれば……?」
「簡単です。どうやら元隣国のハルキナという都市を経由してやってきているようですが、そこに淀みが多く集まっています。なので、その都市にある淀みを刺激してから消してください。今回はすでに手遅れになった者たちの浄化ですから、お願いします」
「わかりました」
「えっ?」
まさか……やってくれるのか???
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