第28話 ???のターン?①
「この世界で最も御しがたく、最も哀れなものが何かわかるかな?」
ふと気付くと薄暗い大きな部屋の中。
響き渡る甲高く耳障りの悪い声。
何を言っておるのじゃろうか、この醜く肥え太った気持ち悪いバカは。
「
なんじゃそのふざけた例えは?
余を
あぁん?
どう見ても貴様のことじゃろうが!!!
「善意と善意が交わり、皆が最良を夢見て各々の最善を尽くしている。それにもかかわらず目の前には崖があり、そこに向かっていってしまう。誰もが危機を感じて焦っていて、違う道に行きたいと対処しているのにできない。哀れな。そしてそのまま崖に落ちていく。どうだ? ここまで言えば覚えがあるだろう?」
こいつは何を言っておるのじゃろうか?
淡く黒い不思議なものが無数に浮かんでいる部屋に見覚えはなかったが、目の前の男……いや、はげたおっさんには見覚えがあった。
決して覚えていて楽しい顔ではなく、むしろ何度ぶん殴ろうかと思ったことか……。
わかるようなわからぬ話をするのはこやつのいつも通りの平常運転じゃな。
そうしてのらりくらりと断罪をかわし続けてきた。
かわしている間に悪辣な方法で相手を陥れ、危機を脱してきた。
そんなこのバカの術中にはまるわけがないじゃろう?
「なぜ答えぬ。まさか覚えがないとでも言うのか?」
ないが?
なんのことを言っておるのか……。まさか余と貴様がお互いに善意で頑張った結果こうなったとでも言うのか?
なんとふてぶてしい。貴様ら貴族は私利私欲のみを追求した結果、肥え太って王城から放逐されただけじゃろうが!?
「ふん、答えぬか。まぁいい。そんな態度でいては無事に返してやれるかわからぬが、せいぜい抵抗を続けているといい」
ここがどこでなぜこんな場所にいるのか?
直前に聞こえた"
恐らくここにあった何かと余を入れ替えたということじゃのぅ。
果たして何と入れ替えたのか?
真昼間から夢を見ながら喋っているのかと思えるほど意味不明で気持ちの悪い男ではあるが、猜疑心や警戒心だけは強い。そんなに変なものを傍に置くとは思えない。
つまり、王城の庭園には恐らくよくわからないがほぼ無害な何かかが現れ、余がここにやって来た……いや、そう言えばほぼ等価なもの、ほぼ同質量のものとを入れ替えるのじゃったか?
国王と等価なものなどこのバカに用意できるわけがないというか、この国の中で用意できるものはおらぬ。
だとしたら、余と同じような中年ではあるが引き締まった肉体に渋いマスク、腹の底を心地良く揺さぶる耳障りの良い声に……
「聞いておるのか!?」
『なぜだ……なぜ我へ捧げるべき柔らかな女ではなく、こんな噛んでも硬く、臭そうなものを連れてきた? まさか失敗したのか?』
「めっ、めっそうもない。これはこの国の王。これと引き換えであれば、ご所望の……いや、それ以上の女が手に入るでしょう」
『たわけ!?』
「えっ……すっ、すみません」
綺麗な土下座じゃのう。しかし土下座か。
あのプライドだけは高い公爵が土下座……。今響いている声の主はよっぽど恐ろしいものなのじゃろうか?
それとも……。
『あの聖女以上の女などおらぬ。古き王族と貴族の血を引き、聖なる技に精通し、胆力もある。あれ以上などない。ゆえに欲しておるのだ。とっとと連れてこい!』
「はっ、ははぁーーー!!!」
よっぽど怖いのか、慌てて振り返って走って行こうとしたバカの進路にすぅっと足を出す。
「ぐへぇっ!?」
当然ながら余の足に気付くことなく転がって行ったバカの頭が大理石の破壊を試みたが失敗した。汚い液体であるところの唾液や血液、そして吐しゃ物をまき散らしている。
あまりの醜さについつい現実逃避したくなったが、まさかこんなに綺麗に決まるとは思わなくてつい……。
「まるで学生の頃のようじゃな。覚えておるか? 忘れたなら記録画像を見せてやるが……」
「やっ、やめ……」
余は完璧な一撃をバカに与えることに成功した足を愛おし気に……いやもう過度な描写はいらぬな……自分の足と転がったバカを交互に見つめた……などとまた逃避しておる場合じゃないのぅ。
「アリア殿の価値を正しく認識しつつも、邪な魔力をまき散らし、彼女の清らかな魂を汚そうとする貴様は誰だ?」
正直言って本気で心当たりがない。
カイラスレーヴェンと似たようなものにも感じるが……探れるじゃろうか?
『ほう……我の魔法が効いておらぬのか?』
「魔法? この黒い魔力のことか?」
『気付いたか。その通り。これは我の魔法、"
「まさか……エリオット王子がアリア殿に婚約破棄をしたのは?」
『知らぬ。それはそのバカが自らの意味不明な欲望に忠実に従って行動しただけだ。かの娘を大事に思わぬように、遠ざけ、貶めるようにするつもりだったが、必要なかった。最初から見下していたゆえ、周りのものの意識を崩してやるだけで容易に突き進んで楽で良かったな』
おいバカ息子……。
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