ナナたん 竹馬

オカン🐷

ナナたん 竹馬

「おお、ナナたん、転んで怪我するよ」

「エへへ」


 ナナは玄関先に置かれた涼子のパンプスに小さな足を入れご満悦だ。


 カツ、カツ、カツ。

 踵の音が高らかにエントランスにまで響く。


「おっと危ない、気を付けて」


 涼子に体を支えられナナは一歩ずつ足を進める。


「竹馬だね、これじゃあ」

「たけんまってなあに?」

「そうだ、ばあばの部屋の裏庭にある竹を切って作ってもらおう」




 庭に出て庭師のジョーを探した。

 温室の扉を開け涼子は大声を出した。


「ジョー」

「りょーたん、ためえ」

「ああ、そうだった」


 温室の奥に入ると、ランの手入れをしていているところで、ピンセットを使っての作業をしているところだった。

 その作業が終わるのを涼子は待っていたのだが、ジョーは人影に気付いてひどく驚いた顔をした。


「驚かせてごめんなさい」


 ジョーはニコリと微笑んだ。

 涼子はスマホ画面を見せると裏庭に向かって歩き出した。


 温室の横手にある竹が鬱蒼と林立する竹林に潜り込み、手刀で切る真似をすると、暫くしてジョーはチェーンソーを持って戻って来た。

 派手な音を立て、あっという間に竹が切られていく。


「ナナ、あのたけかいい」


 竹林の中に入り、


「こりぇ」「こりぇ」


 何度も指さした。

 ジョーはわかった、危ないから離れてと言った。


「ちょっとお、竹を切っちゃうの?」 


 竹林の前の窓ガラスが開いて声がした。


「何? よく聞こえない」

「だから、竹を切っちゃうの?」

「全部じゃないから安心して」


 涼子が大声を出した途端チェーンソーの音が止った。

 ジョーに指でOKサインを出した。


「ママお騒がせしました」

「ほんとに人騒がせね」


 竹林の前の窓ガラスは閉じられた。





「ジョーは聴覚障害者なのに、よく話が通じたなあ。以前、同僚の新居を訪れるので花束を作ってもらうのに四苦八苦したのに」


 りょうは自分の胸を叩いた。


「兄さん、ここよ、ここ。ハートで話をするの」

「そうか、ハートか」


 本当のことを言えば、殆どスマホの力を借りたんだけどね。涼子は心の中で舌を出した。


「りょうちゃん、竹馬なら100円ショップでキットが売ってるよ」


 隼人がポテトチップスを齧りながら言った。


「手作りの方が思い出に遺ると思ってさ」

「ナナいいなあ、おれにも貸してよ」

「いいてちゅよ、おにいたん、とうちょ」


 カウチに蹲っていたマナたちが顔を出した。


「マナも」

「エナも」


 最後に蒼一郎が言った。


「ぼくも」




       【了】


 


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ナナたん 竹馬 オカン🐷 @magarikado

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