透過

ブルコン

透過

マスクを着ける。


といっても、

顔全体を覆う小難しい方のマスクじゃない。

風邪とか病気に罹っている人が着けている顔面の下半分くらいを覆うマスクだ。


いや、違うな。

現代社会においてその考え方は古いかもしれない。


ファッションの一部として機能し始めているのだから。

それを着けることが美しいとされる世の中なのだから。

もう、

病気であることを暗示しているものとして使われない。



鏡を見る。

マスクをつけていない自分よりも美しい。

全ての欠点が覆い隠されてしまうのだから。

至極当たり前のことだ。


至極当たり前になったのだ。


そういえば。

鏡は真実を映すものなんだっけ?


そんなのどうでもいいか。

そんな古い事。


◇◆


いつも通りボーっとしながら、

登校していると、

何か目に付いた。


電柱に花と手紙が添えられていた。

見た感じ白いカーネーションだろう。


この辺りで事故があったのなら、

私の耳に入っているはずだが。


特にそんなことを聞いた覚えはない。

おかしい、と違和感が漂う。


どうにか知りたくて、

この好奇心を満たしたくて、

内心謝りながら、

花に人差し指を伸ばす。


触れる。

感触を味わう。


無味無臭で、

無抵抗で、

無鉄砲で、

無駄な感触。



何も感じない。



悲しみも、喜びも、後悔も、懺悔も、救いも。


何も感じない。


別に造花というわけではないはずだ。

普通に現状生きている花だ。


手紙の方にも手を伸ばしてみるがやはり無駄だ。


どんなにしても掴めないし、拾えないし、読めないよ。

そう読めない。



あ。

違和感が分かった。


私って古いんだ。


◆◇


自宅に戻る。

鏡に私が映る。


ただそれだけ。

それだけのことだ。


どうでもいいよね。


それにしてもマスクを着けたまま映るのか。


それがちょっとおかしくて、

マスクの中で笑った。


鏡に笑みは映らない。

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