キラキラ契約

クロノヒョウ

第1話




 むかしむかし、あるところにそれはそれはのどかで美しく、平和な村がありました。

 山のふもとに広がる田畑は毎年豊作。

 町には衣食住を補う様々な商店が並び、旅人もその賑わいに心奪われ移住してくる者もあとをたちませんでした。

 なにより村人たちが皆仲良くあたたかい村だったのです。

 ところがある日、そんな幸せな村人たちに恐怖が訪れました。

 疫病です。

 咳き込み腹を下しては食べても吐き出してしまうという病。

 始めは数人だったのが、あっという間にほとんどの村人が倒れ、村は賑わいを失ってしまいました。

「これはいかん。どうしたものか」

 この村には医者という者もありません。

 長く生きてきた村長は、この未知の病に頭を悩ませていました。

 村長は老いた体で村人たちの家々を訪ねてまわりました。

「苦しいか? すまぬのう。わしがなんとかする。とにかく今はゆっくり休んでおれ」

 そうやって村人たちに声をかけ、励ましていたのです。

 ですが村長にも何も手だてはありません。

 発熱し栄養もとれなくなった村人たち。

 疫病は村全体に広がりさらに高熱に苦しみ続け皆どんどん衰弱していきます。

 そしてとうとう、村長も倒れてしまいました。

「困ったのう。このままでは村が滅びてしまう」

 村長も諦めかけていた時でした。

 皆が寝静まった夜、村長の枕元に突然大きな男が現れたのです。

「俺と契約するか」

 男がそう言いました。

「契約じゃと?」

 村長は寝たままで咳き込みながらそう聞きました。

「ああ。お前は村人を救いたいのだろう? ならば俺と契約するがいい」

 得体の知れない男に得体の知れない契約。

 ですが村長にはもう考える余裕もありません。

「村人が苦しまなくてすむのならば、お前と契約しよう」

「よしわかった。では契約成立だ」

 そう言って立ち去ろうとする男。

「待て」

「なんだ」

 村長は最後の力を振り絞って聞きました。

「お主は悪魔か?」

「ふん。悪魔でも死神でも、天使でも神でも、好きに呼べばいい」

 そう言ったかと思うと男の姿はもうどこにもありませんでした。

 そして次の瞬間、村長の体は眩しいほどの光に包まれました。

 村長だけではありません。

 村人たち皆の体が光輝いたのです。

 村に灯るたくさんの光。

 そしてその光は瞬く間に空高くへと吸い込まれていきました。

 人がいなくなった村。

 その空にはたくさんの星が輝いていました。

 今でもたまに現れる流星群。

 それは星となって夜空を輝かせる、この村の村長と村人たちの姿なのかもしれません。





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キラキラ契約 クロノヒョウ @kurono-hyo

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