第5話

向き合った状態で、暫しの沈黙。


……不審者って言われた?



そう先程の言葉をやっと解釈できた私は、焦りながら言葉を紡ぐ。


「ち、違いますよ…!!電気の消し忘れかなと思っただけです…!」



失礼な!


変に親切心を出したのが間違いだった。



じゃあお疲れ様です!!と勢いよく謎に労ってその場を去ろうとすると、くすり笑ったその人は「怒らないでよ。」と焦るでも無く、懲りずにそう話しかけてきた。



「冗談だよ。ねえ、ちょっと付き合って?」



マスク姿の彼は、目を細めて小首を傾げて私に尋ねる。なんだこの妙に美美しい雰囲気は。小洒落た店で働く人は皆こんな感じなのだろうか。怖い。




「…い、嫌です。」


「なんで?」


「明日も朝早いので。一刻も早く眠りたいんです。」



疲労がピークの私は、足先はもう帰路に向けたまま、そう早口で告げる。




「でもその涙の跡を見てしまった俺は、気になって眠れないかなあ。」



相変わらず落ち着いたトーンでそう言ってくる彼に、思わず目を見開く。


たしかに、こんな真夜中に化粧も崩れて更に号泣したボロボロの顔で窓を覗く女はやばいと思われても不思議では無いかもしれない。



「えっと…なんか怖がらせてすいませんでした。別にメンヘラとかでは無いので。」


「ん?何の話?」




おやすみなさい、そう言って去ろうとすると夜の静寂に舌打ちが1つ落ちた。



……舌打ち?



「もー、面倒くさいな。」



少し髪を乱してそう呟いた彼は、店とは反対に歩き出していた私を回り込むようにして近づいて、腰を折る。


「、」


やはり、至近距離で合わせてしまったその瞳の色はこの夜空に呼応するかのような、深青だった。

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