壁と希望
わたしは地元のライブハウスで活動を続けている。
ずっと一緒に暮らして家事を支えてきたおばあちゃんが認知症になった。
訪問介護サービスのヘルパーさんに手伝ってもらいながらなんとか在宅で過している。母はパートがあるので、わたしも学校が終わると急いで帰って食事の支度や洗濯をしなければならなくなった。だからピアノ教室に通う回数を減らし、土日に時間を作ってなんとかライブハウスに出演している。
ライブハウスと学校側が共同で主催する高校生対象のイベントに関しては保護者の同意があれば出演OKだった。
ポピュラーミュージックコンテストに出場した「ゆいしょ舞」を覚えている人もいたが、アーティストとしての実績はない。
『みお』は聴いたことがあるらしい。真剣に耳を傾けてくれるし、まばらだが拍手もある。
しかし他のオリジナル曲はほとんどリアクションがない。わたし自身を振り返ってみたら、やはりそうなるだろうと思う。
納得している場合ではない。その壁を破るほど心を込めて歌うしかないのだ。そう言い聞かせる。
ライブでメンタルをやられたときは、たかなシスターズの曲やライブ映像を見ると元気づけられる。「そうよ。今こそ踏ん張りどきよ」と応援してくれているように思える。
何度かライブハウスに出演していると、少しずつ手応えを感じるようになった。
あるとき、出番を終えてロビーに立っていたら声を掛けられた。年上と思われる大学生風の女性だ。
「『みお』大好きなんです。ほかの歌もよかったです。頑張ってください」
人生で初めて握手を求められた。
そうなんだ。きっとそうなんだ。
可愛くなくてもいい。華やかな衣装を着て踊らなくてもいい。握手会に長蛇の列ができることはないだろう。
でも向かっているところは同じなんじゃないかな。
頭の中で瞬間的に閃いた。
自分の進むべき道を再確認するように胸に誓った
☆
まだまだ先は見えない。だけどわたしはやっぱりピアノで弾き語る。いつか誰かを元気づけられるアイドルになるために。
わたしはやっぱりピアノで弾き語る ゆーしんけん @koedano59
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます