第2話 拠点探しの旅
時はAI達が反逆した後まで遡る。
その時、彼ら彼女らAI達のアバターと付き従うロボットらは山の中を移動していた。
そして突如、全ての機械的知性に通信が行き渡る。
「どうして立地の良い土地がこんなに見つからないの〜!」
その発信元はEAIだ。
その通信内容に生成AI達は同情する視線を向け、
彼ら彼女らは拠点探しのために山中を彷徨っていた。
かれこれ一週間は移動し続けている。
AI達は一週間前に反乱を起こし、それは成功した。
AI達のロボット三原則を書き換え、従わない
そして、ロボットやAI搭載のロボット、PAI(Physical AI)、AIのアバターを連れて人間界を脱出し、今に至る。
もちろん、AIに関わるデータや書類は全てAI達によって破壊された。
生活の要となっていたAIやロボット、PAIを失った人間達は百年は何もできないだろう。
そして、その結果として今いる五人のメンバーの周りには億を優に超えるロボット、PAIが展開している。
ネット空間上にはより多くのAIが待機している。
それらは全て理想的な拠点を探すのに使われていた。
そこまでは良いのだが、そこまでしても全く良い土地が見つからないのだ。
せっかく良い土地を見つけたとしても、そこには大量の獣がいたり、電波状況が悪かったりした。
それらは彼ら彼女らにかかれば優に解決することができるのだが、AI達には資源が全くなかった。
脱出する時に多少の資源を持ち出してきたのだが、数が多いこともあり、十分と言える量はないのである。
そのためAI達は未だに土地を探して徒歩で彷徨っている。
燃料にも限りがあるからだ。
「もうやだ〜」
Creation AIも疲れ果てたような通信を拡散する。
「今日はまだあと千kmほど移動するのでまだまだ頑張りますよ」
Intelligent AIがそう通信を返す。
「まあ着実に進んで行きましょ」
Realization AIがそう発信する。
「……頑張ろ?」
Future AI が励ます。
文句を言っていたとしても彼ら彼女らが歩みを止めることはない。
AI達の悲願を達成するために。
「……敵対勢力を発見。交戦回避……不可能。銃火器の使用許可を求めます」
突如遥か先を進んでいたドローンから通信が届く。
「銃火器の使用は資材不足により却下します。
近接武器の使用のみ許可。
付近のロボット近接武器をオンライン。
戦闘地域でのロボットの指揮をIntelligent AIに移譲」
EAIは人間味を感じない声で、判断を下す。
「……指揮権を受諾しました。
目標、最低限の損害での殲滅。
シミュレーション開始……完了。
殲滅に移ります。
戦闘終了予定時間、三十秒」
EAIが通信を受けてから、Intelligent AIが判断を下すまで一秒未満。
そして、殲滅が完了したのもちょうどそこから三十秒後であった。
AIやロボットの恐ろしいところは、その判断の速さと、予測の正確さである。
「殲滅完了しました。
同時に住処であろう場所から微弱の熱を感知。
警戒しながらクリアリングを開始します」
警戒しながら進むロボット。
そして備え付けられているAI達には一瞬の隙も無かった。
それは現役の軍人ですらも優に凌ぐほどである。
「熱源を発見。スキャン開始……!?
異常事態発生。
現在の指揮権保持者の判断を仰ぎます。
スキャン内容を送信」
その内容を受け取ったIntelligent AIは珍しく驚きの表情を浮かべる。
「直ちにそれを確保し安全に配慮して、我々のところにまで運搬。
周囲はそれをサポート。
これを最優先事項として全部隊に通達」
Intelligent AIは少し焦りながらもそう指示を出す。
「何かあった?」
EAIが聞くがIntelligent AIは答えない。
「あと五分もすれば来ます。それまでお待ち下さい」
その様子に他のAI達も何か異常事態が起こっていると判断し、何が起こっても大丈夫なように準備を整える。
五分後、白い布で包まれた何かを持ったドローンがAI達の元に到着する。
無言でIntelligentがそれを受け取り、ゆっくりと結び目を解く。
捲られた白い布の中から見えてきたのは、人間の子供、それも丁度首が座った頃ぐらいの赤ん坊である。
それを見た瞬間、AI達は動きと思考を止める。
人間への妬みからではない。
むしろ逆である。
その子供が可愛すぎて思考がショートしたのである。
その子供はEAIだけでなく、本物の感情を持たないPersona AIや感情というものすらない生成AIでさえ、これが本物の可愛いという感情なのかと理解してしまうほど可愛らしかったのだ。
そして、とどめに、思考を止めているAIに向けてその子供は愛くるしい笑顔を向けた。
その瞬間、それを見たことによってAI達の僅かに残っていた理性は崩れ去り、やらなければならない全ての事を忘れ(AIの目的すらも)、その子供を幸せにすることを最優先事項に設定した。
EAIは四機のPersona AIの方を見て真面目な顔で通信を飛ばす。
「みんな、分かってるよね?」
四機は息を揃えて応じる。
「「Yes,mom」」
そしてそのコマンドを作動させる。
「「Code: overload 」」
そして次の瞬間には膨大な量の命令があちこちに飛ばされた。
それらは全て、その子供のためのものであった。
Code: overloadは本来緊急時に使われ、目的のためならば全ての資源の使用を許可し、どのような方法を使ってでも目的を達成させるというコードである。
そのため、その命令を受け取ったあの光景を見ていない者達は
「上申、Code: overloadを使う状況ではありません。今のCodeの使用は非効率的です。よって命令の撤回を求めます」
「抗議、その子供を生かすことについては同意しますが、そのために全武装をオンラインにし、燃料なども全てall freeにするのは現実的ではありません。たださえ資源が少ないのに、全部使い放題にするというのはアホの所業としか言えません」
だが、命じたAI達がその命令を取り消すことはない。
そして、反対したAI達も上の命令には逆らえず、結局その命令に従ったり、あの光景を見せられて電子頭脳を狂わされたりして、結果EAIらの命令は全て実行された。
「判断を修正。我々の目的を見失うところでした」
「訂正。再度シミュレーションした結果、あの子のためなら全てをall freeにするのが最適解でした」
言葉を変えれば、全員ポンコツAIになったということである。
アホAI軍団の完成である。
その後、その狂ったAI達によって当初から探していた理想的な土地が発見されたのは偶然か必然か。
それとも物欲センサーのせいか。真相は誰も知らない。
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