第13話

 異世界へハケンされる人間のサポートをすることが私の仕事です。受付からハケン先への同行、付帯サービスの紹介までなんでもこなします。年間百人以上のサポートを担当していますし、優秀賞で表彰されたこともあります。カスタマーアンケートでの好感度も高く、後輩の育成も任されています。昇進の打診も少なくない数を受けていますが、すべてお断りしています。実力はあるでしょう、やれる自信もあります。けれど、私にはまだやるべきことが残っていました。


 後藤啓太さんが『四季巡りの季節で君と』へハケンされ、十年間の分岐回避行動を経て迎えたエンディング――はじめに危惧したように、今回も後藤啓太さんは異世界から戻ることができませんでした。

 常にケイタさんの意識や思考を監視し、危険行動をやめさせるために干渉しすぎたのは三度目のハケンの時だったでしょうか。私の干渉も相まってゲーム世界の秩序が破壊され、攻略対象キャラクターもケイタさんも死んでしまいました。それ以降、必要以上に声をかけることは避けてきましたが、気を付けるべき点はここではないのかもしれません。

 プライベートな情報にはマスキングすることができる、と明かしたのが今回の失敗だったと思われます。ケイタさんは常に解放している意識のほかに、私に見せないように考えていたことがあったようです。まさかケイタさんが自己犠牲を払って、私に黙って行動を起こすだなんて考えもしていませんでした。大きな失敗でした。

 リセットされる前のケイタさんのデータを収集し、私は帰還の準備を始めました。

 

 さまざまな世界が存在します。現実世界も、その一つに過ぎません。私の本体は現実世界に在るため、そこを標準位置としています。ハケン員をサポートするため、職員は己の意識をコピーして別の世界へとハケンされる人間のなかへ一つのプログラムとして同行します。

 ミッションを終えて帰還したハケン員のデータは、さらなるシステム向上のために解析されます。ハケン員の異世界での記憶は基本的に消されます。幸福な感情は残しますが、ハケンされる環境は人それぞれであり、その後の人生に大きな影響を与える為、会社側から許可されていません。

 サポート担当者は、帰還後のデータを本体へ取り込むことを推奨していますが、私は後輩育成の際にはよく考えるように指導しています。

 確かにデータを取り込めば、大量の経験や知識を時間を使わずに手に入れることができます。しかし取り扱いを間違えれば、一人の人間が扱える量の感情をかるく越えてしまいます。負荷に耐えられずに退職していった人間を何人も見ています。

 転送装置による事故は一度も起きていませんが、顧客が戻らなくなったケースが一度だけあります。事故の原因、責任の所在、対象者の家族への説明他――正確に原因究明されることもなく公にもされていない事故です。

 世界のはざまを、夢を見るように漂っている――例えるならばそういう状態です。身体を離れた意識は、システムの利用規約によってミッション遂行時に戻れることになっています。では、異世界に飲み込まれてしまった場合は? 実質的な死が待っています。一度目の事故のあと、私は罪を犯しました。後藤啓太さんを助けるために、システムを誤認させてもう一度マッチングを行ったのです。

 私はただ、後藤啓太さんを死なせたくなかったのです。後藤啓太さんがジャンさんやフェルティフィーさんの幸福を願ったように、後藤啓太さんがすべてをやり終えて現実世界へ戻ってきてほしいと願ったのです。私の罪は始まりに過ぎず、私は壊れることもできないまま、彼の人生をやり直し続けています。


 私は私のなかへ、今回の一連のできごとを丸ごと転送し、役目を終えたいと思います。解析は私に任せるのがいいでしょう。次があるかを決めるのは私です。いつものように手続きは私が秘密裏に行うでしょう。失敗を隠蔽し、誰にも悟られずに私は生きるのでしょう。私は失敗を気に病んで、落ち込むでしょう。そうしてきっと、私はまた繰り返し――後藤啓太さんを救うために、異世界へハケンするのでしょう。



・・・・・・



「後藤啓太さん、十六歳でお間違いないですか?」

わたくし、異世界ハケン株式会社総務部の飛田と申します。後藤啓太さんの担当として最後までサポート致します」

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異世界ハケン株式会社~乙女ゲーの攻略キャラ同士がいい感じなのでヒロインルートを回避させます!~ 三縞百 @3tr

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