第5話
「あたしもそのつもりよ。だから御褒美を用意しておくの」
羽津稀は笑顔を絶やさない。
そんな羽津稀を前に俺は泣くのを堪えられなかった。
「あんたが泣いてどうする。泣きたいのはあたしよ」
羽津稀が言う。
「そうなんだけど涙、止まらなくて…ごめん、羽津稀」
俺は涙を拭いながら焦った。
でも涙は止まらない。
そんな俺に羽津稀は呆れる。
ここから半年後、羽津稀は杖が無くても早歩きが出来る様になっていた。
「歩き過ぎると傷が痛むぞ」
俺は羽津稀を心配して注意する。
「痛んだら休むよ」
「それじゃおせぇわ」
「そっか」
羽津稀は不思議な位笑顔を絶やさなかった。
「早く籍入れれば良いのに」
母ちゃんが俺と羽津稀に言う。
「こっちにも都合ってもんがあるの」
俺は夕食に並んだ唐揚げを頬張りながら返した。
「籍入れる時は豪華な結婚式開くから」
俺は宣言する。
「ハデ婚って離婚するイメージあるんだけど。あたしだけかな」
羽津稀も唐揚げを食べながら言った。
「ジミ婚で終わらすの?」
俺は羽津稀を見る。
「豪華な結婚式やるより長く贅沢した方が良いな」
羽津稀は言った。
「両方叶えてやろうやんけ」
俺はムキになる。
「期待してるね~」
羽津稀だけでなく何故か母ちゃんまでがそう言った。
「栞さんならわかるけど母ちゃんにはくそ親父が居るだろうが」
俺は言う。
「何だい。私は混ぜてもらえないって言うのかい?」
母ちゃんが俺を見て言った。
「遊びには来ても良いけど一緒には暮らさんよ。今と同じだと思ってて」
俺は手巻き寿司を巻きながら言う。
「毎日居たらごめんね」
母ちゃんが言った。
「兄ちゃんと姉ちゃんとこにも行って」
俺は即答してしまう。
「良いって言われたらね」
母ちゃんは言った。
「俺には許可貰わないのかよ」
俺はついツッコむ。
「羽津稀ちゃんには許可貰ったけど」
「はい?」
母ちゃんの言葉に俺は止まった。
「あ、窓伽も了承の上かと」
羽津稀が微笑う。
「羽津稀が良いなら良いけどさぁ」
俺は羽津稀には何も言い返せない。
別に弱みを握られているわけではない。
だが何も言い返せないのだった。
何故でしょう。
理由は無い。
自分でも不思議だった。
あ、俺は無事に高校卒業しました。
デザイナーの専門学校入って家で出来る仕事してます。
羽津稀とも同棲中。
それが今。
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