タリア村編

第1話 転生

「オギャア、オギャア!」

「――――」


 己の意思にかかわらず、泣き叫んでしまう自身の身体。薄くぼやける視界に映る、見知らぬ西洋風の美男美女。そして、聞き覚えのない言葉で二人はに話しかけてくる。まだぼんやりとする思考の中で、何故だかわからないがすんなり受け入れた結論。

 ――異世界転生。近年においてはかなり有名なジャンルにもなったそれを、どうやら僕はする事になったようです。




 セイルという名の一村人として生を受けて早四年。前世の記憶のうち、エピソード記憶はまったく思い出せなくなり、意味記憶も、前世の俺自身を判別するようなものだけ覚えていないという状態となり、前世持ちのアドバンテージである経験の多さを活かせないでいた。

 ……まあ、仮にそういう記憶がもし有ったとしても使いこなせるかどうかは別なのだが。

 そんなふうに短い様で、実際振り返るにしてもそこまで長い訳では無いこれまでを、村近くの原っぱに寝そべりながら思い返していると、少しだけ暗くなる。


「こんなとこで何やってるの、セイル」

「んぁ……。フィルマか」


 影がかかったと思うやいなや、俺へと呼びかける鈴の音のような少女……というより幼女の声。目を開けて姿を見なくても分かる。幼馴染のフィルマだ。


「別に、ただ空を眺めてただけだよ」

「目を瞑って?」

「たまたま閉じていただけさ。……それより、フィルマは一体何のよう?」


 片目を開けて、俺の視界に逆さまに映るフィルマと当たり障りも中身もない会話を二言三言交えてから尋ねると、フィルマは唇を尖らせながら俺の隣へと降ろしたので、俺も半身を起き上がらせる。


「別に用はないけど……。セイルも村のみんなみたいに遊んだりしないの?」

「うーん……。ほら、俺って元気に野山を駆け回る系では無いだろ?」

「何言ってるの……?」


 戯けるように肩を竦めると、しらーっとした目で見られる。中々にきつい反応である。


「まあ、俺はそんな事よりのんびりしたいから、日向ぼっこしていただけだよ」

「ふーん……。ま、セイルがそう言うなら良いけど。あんまりセナさんに心配かけちゃ駄目だからね?」

「怪我する心配が無いんだから、こっちの方が良いだろう?」

「横になってばかりなのも、それはそれで心配されるの……よっ、と」


 そう言いつつも勢いをつけて立ち上がるフィルマ。その反動で茶色のエアリーボブがふわりと揺れる。可愛い、流石は村のアイドルである。

 そんなフィルマの後ろ姿を見送ると、日の傾き方からそろそろいい時間だと分かる。


「……俺も帰るか」


 膝に手を置いてよいしょと立ち上がる。……普段あまり運動しないから、おじさんみたいな立ち上がり方になったな。明日から俺も走ったりしようかな。

 そんなふうに思考を逸らしながらも、村への帰路へつくのだった。



―――――――――――――――――――――――   

 1話と言うか、プロローグ的な立ち位置なので、このぐらいです。

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