Memory of birthday
【注意!!!!】
こちらは作中のネタバレを含みます。苦手な方は紹介画面よりURLリンクにいって物語シリーズを読んでいただくことを推奨します。
それでも大丈夫という方はこのまま読み進めていただいて構いません。読んでもらえれば作者が泣いて喜びます。なんなら番外編から読んで物語シリーズ本編でも泣いて喜びます。
それでは番外本編へどうぞ!
――――――――――――――――――――――――
――――ディックにとって、自身の生まれた日というものはそれだけで憂鬱でしかない。
なぜなら物心ついたときに周りにいたのは、自身にとっての敵か持ち上げたいだけの臆病者、そして何よりも自身を恐れるその他大勢ばかりだったから。
自身にとっての味方は片手で数えても足りるくらいの人数しかいなくて。そして、その者たちがディックから離れれば今度こそ彼は一人ぼっちになった。
家族はこちらを怖がっているのかどうかわからない。だけども異常な成長発達に対して擁護し、守ってくれるわけでもなくて。
唯一してくれたことといえば、守ると言い張っただけの体の良い療養旅行の提案で。これに関しても表立った手助けではなかった。
だから、ディックはいつも孤独だった。誰かといても、常に心の何処かに穴が空いているような気分だった。
そんなディックに心境の変化があったのは、療養旅行先のストック村についてから数日後のこと。
一緒にこのストック村へと来てくれた乳母一族の家の庭で日課となっていた剣の素振りをしていたディックは、ふと視線を感じて左を向いた。なんとなく、そうなんとなくだけれどもみなければならないと思ったから。
乳母一族の家の左隣にはとある一家がそこに住んでいて、ストック村に着いた当日にご近所付き合いということで乳母と共に挨拶に行った。その時に父親らしき人と双子の姉弟の姿を見かけており、だからか視線の主はその家族の誰かだと思っていたのだ。
・・・・けれど。向いた視線の先にいたのは隣家の父親らしき人や双子のどちらかではなく。
赤みがかった金色の髪の小さな――――いや、ちょうど自身と同じくらいの大きさの女の子だったのである。
知らない女の子の登場に、ディックはしばらくの間じっとその場で彼女を見つめていた。というより、どちらかといえばその子が持つ髪色に目を奪われたというのが正しいだろう。
――――炎を思わせるような明るい髪。その色は小さい時から聞かされていた『不死鳥の騎士』に出てくる精霊神・フェニックスにそっくりで。
だからか。
少し、ほんの少し、かすかにだけれど――――――覚えのない記憶のどこかで見たような気がした。在りし日のおぼろげな、けれど温かい面影のような、そんな追憶。
だがしかし、その疑問を疑問として覚える前に。
「あなた、とてもきれいなぎんいろね! かっこいいきしさまのよろいみたい!」
と、無邪気に笑うその女の子の方から声をかけられた事によって霧散した。
――――その日は運命というべきなのか、ちょうどディックの生まれた当日で。そして、その日にディックは自身の人生において守るべき大切な人に出会ったのである。
* * * *
ディックは今でも夢に見る。
あの日あの時までの誕生日は憂鬱で、早く過ぎ去ればいいと思っていた。けれど―――――
あの瞬間に出会えた彼女の存在が、自身の在り方を変えてくれたのだと。自身にとって最高の転換期なのだと。
王国戦記〜不死鳥の乙女は蒼空を舞う〜 番外編 薄紅 サクラ @Ariel191020
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