002. 【 ぼくの同位体《あいそとーぷ》のごとき同居体 】―― ユニーク細胞 ~Θ《シータ》~


――〈……《あーく》…。

 〝Fatigueふぁてぃーぐ (倦怠感けんたいかん) Factorふぁくたー(因子)〟が優勢――〝Recoveryりかばりー(回復)〟しきれていない……〉――



 のそりとぼくから分離したフォトンが、かたわらに電子造形を築きあげる。

 気のままに空中をただよう電磁気の流動……。

 霊気オーラさながらだけど、どちらかというとデジタルアート。


 無数の〝ちょう〟だったり〝鳥〟だったり、〝人の面影おもかげ〟だったり――

 めくるめく線画、色彩の波で思い思いの造形を表現する。

 

 ぼくの中に息づく特殊ユニーク細胞がぼくと交流するうえで、気まぐれに見せる遊戯あそび

  

 《Θシータ》は、ぼくの相棒にして、ぼく自身でもある。


 その存在の表現手段――

 〝主に電磁現象~様式~〟や〝発言〟〝感情〟は、第三者ならぬ第三生物――(人にかぎらない)――に感知かんちできないことが多い。


 その出力や性質を他人が把握しやすい方向に伸ばすか伸ばさないかは、ぼくの内にある《Θシータ》の考え気分と選択次第だ。

 ぼくと《Θシータ》の状態調子にもよるみたい。


 なかには人の視力ではとらえがた電荷磁力に敏感な人間もいるけれど、それはかなり稀有けうな例――めずらしいことだった。



「対策してくれない?」



――〈めんどう。(いまのところは)重篤じゅうとくなレベル……(活性がおちているけど不快な居心地が悪いほど)……でも無いナシ

 不足をおぎない栄養とって、仮眠すれば解消される〉――


 

 このとおり。

 ぼくの体内ウチにありながら独立した思考をそなえていて、ぼくが依頼お願いしても承諾して応じてくれないことがある。


 《Θシータ》なら、ぼくの体をベストなコンディションに導くことが可能なのだけれど。

 いまはそうしてくれる気がないようだ。


 かたわらに高層ビルを築いたかと思えば、一瞬でくずれ、海面のごとき層をなびかせる。

 さらさらと、青黒くのたうつ磁流。


 ぼくの直感第六感を越えた〝第七の要素〟。


 ぼくでもあるけれど、ぼくではない。

 疲れをおぼえないわけではないし病気になることもあるけれど、《Θシータ》が混ざりこんでいるから、ぼくの肉体は、類をみない再生力を具え、問題が起きても、ほぼ過不足なく修復される。

 ぼくが情報を処理することにけているのも、その存在があるからだろう。


 《Θシータ》は、ぼくを構成する要素の一部。

 ともに存在し、感化しあい、サポートしてくれる無二の友だ。


 その存在……人格? が他者と関わりたがらないので、皆はぼくと《Θシータ》を同一のものと認識する。


 まちがいではない。

 だけど彼らには、思考もいっしょのものと受けとめているフシがあった。


 相違そういがあろうと、どれもこれも、きっぱり否定できるものではなく……。

 努力した結果、〝見えない友達がいる〟とか、〝二重人格(ほぼ事実)〟など。

 〝変人〟認定されるのは心外なので、ぼくももう、強く主張したりしない。


 すこし、ひっかかりをおぼえているけれど、《Θシータ》と同意見で……。


 ――そんなのは、どうでもよかった。


 あの人たちに興味はない。


 あの人たちは、ぼくを〝鬼才〟・〝超人〟。

 はてには〝異常〟、〝人造のギフテッド〟とかいうけれど、ぼくにとってはこの状態があたりまえふつう


 発生した時からこのようにある。

 だから、一般他人と少しくらいちがっていても〝おかしい〟とは思わない。


 どんな個体にだって特色がある。

 なにが突出していようとりてなかろうと、これがぼくの個性なんだ。


 ぼくは、実験体。

 人為的に生みだされたもの。

 試行錯誤のすえに偶発的に成りたった産物生物だ。


 先の天才――ぼくを生みだした科学者たちは、ぼくを説き伏せこの施設に隔離しようとした。


 前の人たちは……一枚岩でもなかったけれど、ぼくを守ろうとしてのことだったのだと思う。

 後の人たちの場合は、きっと。

 そうすることで、ぼくを利用し、得られる利便性快適や技術を盗まれないためだ。


 ぼくが関わっているこのプロジェクトには、相当量の資金と時間と労力がつぎこまれていたし、としてぼくを知った者は、ぼくという成果を部外者に奪われて出しぬかれることを恐れているのだ。


 ぼくに言わせれば、どれもこれも他人の徒労。無駄な努力。

 はんぱな存在に、ぼくを使いこなせるとも思えない。


 人は我欲のかたまりだし、ぼくも人のはしくれ。

 めったなことでは、ぼくの心はつかめない。動かせやしないんだ。


 げんにぼくを生みだした研究者やそのまわりの人たちは、ぼくや《Θシータ》を支配しきれずに、もてあました。


 その後継者たちも先人が整えようとしたこの状態――企画設計プロジェクト機密シークレットとしながら、ぼくをふくめた一連のシステムを維持しているふうをよそおっているだけだ。

 優位に立っているような顔をしているけれど、ぼくには手を出せずにる。


 先人が組みあげた機構メカニズムを、ぼくが思う方向に改良して管理しているからね。


 むろん、管理しているぼくは、自由にここからぬけだせる。

 でも頻繁に出かけようとは思わない。


 目的があれば外出することもあるけど、外はぼくが積極的に行きたいと思う環境ではないんだ。


 この施設がある都市は、最先端ともいえる技術を平和的な方向に活用し、維持できているほうだけど……


 世界はいま、

 貧しさと豊かさの二極化、三極化どころか……

 技術や資源、土地、権力地位、富……優位性の奪いあいで混沌としている。


 人工知能が発達し便利さを手にしようと、その恩恵を享受できている土地はごくわずか。

 ぼくが活動しているこの領域をはじめ、この惑星ほしの部分部分。局所にすぎなかった。


 状況が変化しようと、人間の本質は原始から変わっていない。


〝和〟であれ〝やすらぎ〟であれ〝力〟あれ〝ゆとり〟であれ、〝利己〟であれ〝依存〟であれ〝逃避〟であれ……

 理想や方法、向きあい方はそれぞれでも、個の存続に固執し、利を見れば魅せられ、自身をみたすことを夢見て、とりつき奪いあう。


 存続するために気の合うもの・利害が一致するものとタックを組み、協力しあいもするけれど……

 あらそいきそい、足をひっぱり、蹴落としあう。


 よりよい安楽――優位な条件をもとめ、有益な〝すき〟を見つけては、自身をねじこむ。


 存在のありかたをかんがみれば《命》と名を変えようとむしろそれがあたりまえなのかもしれないけれど、

 それぞればらばらにてんでんばらばら有限の世に永遠を求めて、もだえあえいでいる……


 ぼんやりそんなことを思索していると、前方に流れた《Θシータ》が、線画的な電磁波光子/フォトン表現で、人々の輪郭群衆の縮図立体模写したかたどった

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