ポップなラブコメと言ったな?あれは嘘だ。
- ★★★ Excellent!!!
本編があって、本編には影響を与えない劇場版とかOVAみたいなサイドストーリー、アナザーストーリーのラブコメだと思って読み始めたら、完全に騙されました。
いやね、本編を超える文量、熱量、心理の緻密さ、質量。いや、本編も出版される時にはこれをさらに超えてくるんだろうけど。
「ぼく」はかなり面倒な人物だ。本人は自覚していないだろうが、純粋すぎる。不正を許せない。そして不正しているのは自分だと思っている。純粋というのも、子供の純粋とは訳が違う。子供の無邪気な残酷さや自己中心性はなく、経験を積み、大人としての振る舞いができるのに、内面は純粋でありすぎて清濁併せ持つことができない。真っ当な大人なら許容する「いい加減」ができない。特に自分自身に対して。
この物語は、「本編」の前日譚であり後日談だ。「本編」の導入部で「ぼく」が何故あのような行動を選んだのかを補完している。
結末に向かうストーリーだけれど、「ぼく」という人物を深く掘り下げた物語だ。ほとんどの読者は自分と「ぼく」を重ねたりしないだろう。自分の不純さなんて、みんな知っているから。なのに共感はできるのは、緻密な心理描写、いや、思考の流れが描かれているからか。
ラブコメ部分が「ぼく」にとってはホラーだというのも、表層の描写だけでは到底読み取れないものだったろうし。
とにかく読み応えがありました。