第三章


第3章 王都へ


アレンとセーラは、リバーサイドの町を後にし、王都を目指して歩き始めた。道は舗装されており、旅人も多い。

「王都までは、あとどれくらいかかるんだ?」

アレンが尋ねた。

「順調にいけば、3日ほどで着くはずです」

セーラが答えた。

「でも、油断は禁物ですよ。この道は、魔物も出やすいんです」

「わかってる」

アレンは、剣の柄に手をかけた。

しばらく歩いていると、前方から悲鳴が聞こえてきた。

「きゃあああ!」

「魔物だ! 逃げろ!」

人々が、慌てて逃げ惑っている。

アレンとセーラは、顔を見合わせた。

「行くぞ、セーラ!」

「ええ!」

二人は、声のする方へ駆け出した。

そこには、巨大な猪のような魔物が、人々を襲っている光景があった。魔物は、鋭い牙と突進で、旅人たちを蹴散らしている。

「あれは、フォレストボアだ…!」

セーラが、息を呑んだ。

「かなり強力な魔物です! 気をつけて!」

「ああ!」

アレンは、剣を抜き、魔物に向かって突進した。

「はああああ!」

アレンは、渾身の力を込めて、剣を振り下ろした。しかし、魔物の皮膚は硬く、剣は弾かれてしまった。

「くっ…!」

アレンは、体勢を崩した。

「アレン、危ない!」

セーラが、魔法を唱えた。

「アイスランス!」

セーラの杖から、氷の槍が放たれ、魔物の足に命中した。魔物は、動きを止め、苦しそうに唸り声を上げた。

「今だ、アレン!」

セーラが叫んだ。

アレンは、再び剣を構え、魔物に向かって跳躍した。

「はあああああ!」

今度は、魔物の急所を捉えた。剣は、魔物の心臓を貫き、魔物は、断末魔の叫びを上げ、倒れた。

「やった…!」

アレンは、息を切らしながら、立ち上がった。

「大丈夫ですか!?」

アレンは、倒れている人々に駆け寄った。

「あ、ああ…助かった…」

人々は、震える声で答えた。

「ありがとう…あなたたちのおかげだ…」

「いいえ、当然のことをしたまでです」

アレンは、照れくさそうに言った。

「私たちは、王都へ向かう旅の途中なんです」

セーラが、人々に説明した。

「王都へ? それは、大変だな…」

人々は、同情的な目で二人を見た。

「最近、魔物が増えてきて、この道も危ないんだ…」

「気をつけて行くんだぞ…」

人々は、アレンとセーラに忠告し、去っていった。


「魔物が増えている…か」

アレンは、不安そうな表情を浮かべた。

「ええ。魔王の復活が近いのかもしれません」

セーラも、深刻な表情で言った。

「でも、私たちは負けない。必ず、魔王を倒して、世界を救うんだ」

アレンは、決意を新たに、剣を握りしめた。

「そうですね。私も、あなたと一緒に頑張ります」

セーラは、アレンに微笑みかけた。

二人は、再び歩き始めた。

しばらく歩いていると、道端に、荷車が止まっているのが見えた。荷車の近くには、一人の男が座り込んでいる。

「どうしたんですか?」

アレンが、男に声をかけた。

「ああ…実は、車輪が壊れてしまって…」

男は、困った顔で答えた。

「俺は、旅の商人なんだが、これじゃあ、先に進めない…」

「もしよかったら、修理を手伝いましょうか?」

アレンが提案した。

「えっ、本当かい? それは助かる!」

男は、嬉しそうに言った。

「俺の名前は、マルコだ。よろしく頼む!」

「僕はアレン、こっちはセーラ」

アレンは、自己紹介をした。

マルコは、王都と周辺の町を回って、商売をしているという。

「王都は、もうすぐそこだ。この荷車を直せば、すぐにでも行けるんだが…」

マルコは、壊れた車輪を見つめながら言った。

アレンは、車輪を調べてみた。車輪の軸が折れてしまっている。

「これは、かなり酷いな…」

アレンは、困った顔をした。

「私に、任せてください」

セーラが、前に出た。

「私は、魔法で物を修復することができます」

「本当かい!? それはすごい!」

マルコは、目を輝かせた。

セーラは、杖を構え、呪文を唱えた。

「リペア!」

セーラの杖から、光が放たれ、車輪を包み込んだ。光が消えると、車輪は元通りに修復されていた。

「す、すごい…!」

アレンは、驚きの声を上げた。

「まるで、新品みたいだ…!」

マルコも、感激した様子だった。

「ありがとう、セーラ! 本当に助かった!」

マルコは、セーラに深く頭を下げた。

「どういたしまして」

セーラは、照れくさそうに笑った。


「お礼と言ってはなんだが、二人を王都まで乗せていってやるよ」

マルコは、荷車を指差しながら言った。

「えっ、いいんですか!?」

アレンは、嬉しそうに言った。

「ああ、もちろんさ! 恩人である二人を、歩かせるわけにはいかない」

マルコは、笑顔で答えた。

「ありがとうございます!」

アレンとセーラは、マルコに礼を言い、荷車に乗り込んだ。

荷車は、ガタゴトと音を立てながら、王都へと向かって進み始めた。

「王都は、すごいところだぞ」

マルコが、話し始めた。

「この大陸で一番大きな都市で、様々な人種や文化が集まっている。活気があって、見ているだけでも楽しいぞ」

「へえ、それは楽しみだな!」

アレンは、期待に胸を膨らませた。

「でも、注意も必要だ」

マルコは、真剣な表情になった。

「王都には、悪い奴らもたくさんいる。特に、最近は、貴族たちの間で権力争いが激化していて、治安が悪化しているらしい」

「権力争い…ですか?」

セーラが尋ねた。

「ああ。王位継承を巡って、様々な思惑が渦巻いているんだ」

マルコは、ため息をついた。

「そんな中で、魔物も増えてきている。王都は、今、かなり危険な状態にあると言えるだろう」

「そうなんですね…」

アレンは、不安そうな表情を浮かべた。

「でも、心配するな。俺が、王都のことは色々と教えてやる」

マルコは、力強く言った。

「何か困ったことがあれば、いつでも頼ってくれ」

「ありがとうございます、マルコさん」

アレンは、マルコの言葉に勇気づけられた。

荷車は、順調に進み、やがて、遠くに大きな城壁が見えてきた。

「あれが、王都だ…!」

マルコが、指差した。

アレンとセーラは、息を呑んだ。城壁は、高くそびえ立ち、まるで、巨大な壁のようだ。

「すごい…!」

アレンは、初めて見る王都の光景に、圧倒された。


王都の門は、巨大で、衛兵たちが厳重に警備していた。

「ここで、身分証を見せる必要がある」

マルコが、アレンとセーラに言った。

「身分証…?」

アレンは、首を傾げた。

「ああ。王都に入るには、身分を証明するものが必要なんだ」

マルコは、自分の身分証を取り出した。

「俺は、商人だから、これがある。お前たちは…?」

「僕は、エルム村の出身で…」

アレンは、困った顔をした。エルム村の出身であること以外、身分を証明するものを持っていない。

「私は、魔法学校の学生証があります」

セーラは、学生証を取り出した。

「それなら、大丈夫だろう」

マルコは、安心した様子だった。

「アレンは…そうだな、俺の助手ということにしておこう」

マルコは、アレンに言った。

「それで、通れるでしょうか…?」

アレンは、不安そうに尋ねた。

「まあ、試してみるしかないな」

マルコは、苦笑いした。

衛兵の前に来ると、マルコは、自分の身分証と、セーラの学生証を提示した。

「この二人は、私の助手です」

マルコは、衛兵に言った。

衛兵は、アレンとセーラをじろじろと見た。

「…よし、通れ」

衛兵は、渋々といった様子で、通行を許可した。

「ふぅ、助かった…」

アレンは、胸をなで下ろした。

「マルコさん、ありがとうございます」

セーラが、マルコに礼を言った。

「いやいや、これくらい、どうってことないさ」

マルコは、笑顔で答えた。

三人は、王都の中へと入っていった。

王都の中は、外から見た以上に、賑やかだった。道には、人々が溢れ、様々な店が立ち並んでいる。

「すごい…! まるで、お祭りみたいだ!」

アレンは、興奮した様子で、辺りを見回した。

「これが、王都…!」

セーラも、目を輝かせている。

「まずは、宿屋を探さないとな」

マルコが言った。

「俺の知り合いの宿屋がある。そこなら、安心して泊まれるはずだ」

「ありがとうございます、マルコさん」

アレンは、再びマルコに礼を言った。

マルコは、二人を連れて、王都の路地裏にある、小さな宿屋へと向かった。


宿屋は、「猫の隠れ家」という名前だった。外観は古びているが、中は清潔で、温かみのある雰囲気だった。

「マルコじゃないか! 久しぶりだな!」

宿屋の主人は、マルコを見て、笑顔で出迎えた。

「ああ、久しぶりだ、ガルド。実は、この二人を泊めてもらいたいんだ」

マルコは、アレンとセーラを紹介した。

「こいつらは、俺の恩人でな。安心して泊まれる宿を探しているんだ」

「そうか、わかった。任せておけ」

ガルドは、快く承諾してくれた。

「部屋は、二つでいいか?」

「いえ、一部屋で大丈夫です」

セーラが答えた。

「私たちは、一緒の方が安心なので」

「そうか、わかった。それじゃあ、広い部屋を用意しよう」

ガルドは、二人を二階の部屋へと案内した。部屋は、広く、窓からは王都の景色が一望できる。

「すごい…!」

アレンは、窓から外を眺めながら言った。

「ここなら、ゆっくり休めそうですね」

セーラも、満足そうな様子だった。

「二人とも、今日はゆっくり休んでくれ」

マルコは、二人に言った。

「明日から、王都を案内してやる。楽しみにしておけよ」

「ありがとうございます、マルコさん」

アレンとセーラは、マルコに感謝した。

マルコは、部屋を出ていき、アレンとセーラは、二人きりになった。

「本当に、マルコさんには感謝しないとね」

アレンは、セーラに言った。

「ええ。彼がいなければ、私たちは、王都に入ることすらできなかったかもしれません」

セーラも、同意した。

「それにしても、王都はすごいところだな…」

アレンは、改めて、窓から外を眺めた。

「ええ。でも、気を引き締めないと。マルコさんも言っていたけど、危険なこともあるみたいだから」

セーラは、少し不安そうな表情を浮かべた。

「大丈夫。僕が、君を守る」

アレンは、セーラの手を握りしめた。

「…ありがとう、アレン」

セーラは、アレンの言葉に、少し顔を赤らめた。

二人は、しばらくの間、窓から王都の景色を眺めていた。

夕日が、王都を赤く染めている。

明日から、二人の王都での生活が始まる。

そこには、新たな出会いと、試練が待ち受けていることだろう。


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