第15話 運命の女神の能力

 フォルが唱えたあの呪文、前にデメテルが亜空間をプレゼントしてくれた時と同じだ。あの時も驚いたけど、今もあまりに衝撃的過ぎて体が動かなかったよ。

 まさか、フォルがキスしてくるなんて……!しかも、いつもと違ってまるで、純情そのものって感じの乙女みたいだった。あんな表情もできるんだね。キスされた頬をそっと触ると、彼女の柔らかな唇の感触がまだ残ってるような感覚がして、なんだか気恥ずかしかった。


 でも、どーしよ……デメテルがまた怒るんじゃないかな。僕も易々と、キスされちゃったし……ごめんよ。ふと、デメテルの方を見ると、固まっていた。どうやら彼女にも相当、衝撃的だったらしい。


「で、デメテル……?だいじょ――」

「へへっ……どーだ?流星。なんか感じるか?」


 ピクリとも動かないデメテルに声を掛けようとして、横から照れた様子のフォルに遮られた。


「う、うん。なんだか頭がスーッと冴えてきたような……でも、それよりも、デメテルが――」

「あーダイジョブダイジョブ」


 うん、その表情は全然、大丈夫そうじゃないね?思いっきり、やっちまったぜって顔してるよ?


「ちょ!ちょっとおぉぉっっ!!!何やってるのよっ!?フォルトゥーナッ!!?」


 それまで、石像のように固まっていたデメテルが突如、復活。もの凄い勢いでフォルに詰め寄ってきた。


「な~にが、ダイジョブよ!?私の流星に何してるのっっ!!?」

「あー……いや、だから、おまじないをしてやろうかと思ってさ。それに【クオリティ・タイム】の時にキスされたって流星が言ってただろ?だから、アタシもそ、その……」


 デメテルの勢いに完全に劣勢なフォル。しかも、その後退あとずさりは壁際まで追い詰められていた。


「で、デメテル、落ち着いて?ね?僕も不用意に……その、ごめん。まさか、そうくるとは思わなくて、ビックリして体が動かなかったんだ。本当にごめんよ」


 掴みかからんばかりのデメテルの勢いにマズいと思った僕は、フォルを庇うように間に割って入り、ひたすら謝った。すると、デメテルはフォルを警戒したまま、口を開いた。


「流星はいいのよ。私たちの能力を知らないんだから、あんなこと急にされたら驚くに決まってるわよ。それで、そ、その……キスは、どこにされたの?ま、まさか口に――」

「ううん!違うよ!ほっぺに軽く唇が当たっただけだよ。ね?そうだよね、フォル?」


 ブンブンと音が聞こえてきそうなくらい激しく首を上下に振るフォル。


「そうなの?……それでも、あまり良い気はしないわ。フォルが能力を使った時、な~んか二人で良い雰囲気で見つめ合ってたように見えたし~??」


 疑いの目を向けるデメテル。目を逸らすフォル。左右に首を振ることしかできない僕。


「そ、そんなことないよ?ねえ?」

「お、おう。そうさ。ただ、どうやってアタシの力を渡そうかなって考えてただけさ、うん、それだけだ。決して他意はない。うんうん。ロマンスの神様に誓って」


 どもりながら、二人して懸命に説明する。これってなんだか浮気がバレた時みたい……もちろん、付き合ったとしても、そんなことするつもりないけどね。

 ていうか『ロマンスの神様』??懐かしの音楽番組で確か、そんな歌があったな。ボケなのか本当にそんな神さまがいるのか、全く分からないんだけど……もし、こんな時にボケられるんなら、フォルって相当、肝が据わってるよね。


「本当なのね、フォル?……ふ~ん。まあ、いいわ。あなたが恋愛に興味あるようには見えないし、許してあげる。でも、流星に急に近づいたり、抱き合ったりはダメよ?あと、ほっぺにキスも禁止!わ、私だってそんな羨ましいこと……あっ……と、とにかく禁止なんだからね!?」


 ふぅ~……よかった。なんとかいつもの声色のデメテルに戻ったよ。僕もほんとに気をつけなくちゃ。デメテルに悲しい思いはさせたくないし。

 それにしても、フォルは一体、どうしたんだろう?さっきのあの瞳、何か言いたそうだったんだけどな。あとで、こっそり聞ける時間あるかな……。


「それで?流星に何をしたのかしら?」


 デメテル、表情は笑ってるけど、声が若干、低めでちょっと怖いんですけど。


「あー……えっと、アタシってさ【運命のささやき】があるだろ?流星はきっとこの先、アタシ達の世界で暮らしていける予感がするんだ。だから、流星が暮らしの中で何か困った時のために、それを共有しようと思ってさ。何かと役に立つんだぜ?この能力」


 フォルが元気な声をいつもより抑え気味に話す。あー……ビビッてますね。うん、分かるよ。その気持ち。


「あら、それはいいわね!あなたのは信頼できるものね」


 思いのほか、嬉しそうな声を出すデメテル。


「ねえ、それってどんな能力なの?デメテルが前に話してくれた『極小アルファ』とか『ゼータ』ってやつ??」

「お?なんだ、もうそんなことまで話してんのか?でも、残念ながら違うな」

「流星、私が話したこと覚えててくれたのねっ!嬉しい!あのね、それは神の能力の中でも、司る対象を決めてから初めて発現するもので、その神以外には使えないのよ。他の誰であっても共有できたりしないわ」


 そうなんだ。まあ、確かにアルテミスさまの『隕石落とし』みたいな能力を、おいそれと共有できたら、それはそれでヤバそうだしね。


「じゃあ、そもそも、能力の種類が違うってこと?」

「へぇ、鋭いな。流星って割と順応力、高いんじゃないか?当たりだ。例えば、アタシやデメテルが使った『亜空間』は皆、持ってるんだ。他にも共通する能力は幾つかあるけどな。さっき話に出てきた『言語の四技能』とかさ。そういう、どの神でも持ってる能力は共有できるのさ。まあ、基本的には親からまだ覚えてない子へ、感覚を覚えさせるために共有するんだけどな……ってこれは、もう話したっけか」


 へ~神さまって能力、たくさんあるんだね。


「でな、その共通する能力以外にも共有できるものがあるんだ。それが、アタシたち神が生まれながらにして持ってる力さ。アタシだったら【運命のささやき】だな。いまさっき、流星に渡したやつだよ」

「そうなんだ?何の能力か分からないけど、フォル、ありがとう。僕のこと考えてしてくれたんでしょ?すっごく嬉しいよ!」


 フォルの気持ちが嬉しかった。なんだかんだ優しいよね。その【運命のささやき】ってどんな能力なんだろう?


「お、おう……なんか照れるな。まあ、普通は、生まれながらの能力を共有する機会なんて、そうはないんだけどさ。流星はデメテルが世話になってるしな……とにかく、そんなに大したことじゃないさ」

「いやいや、僕の方がお世話になってるんだってば」

「あれ?そーだっけか?」


 フォルと二人で笑い合う。


「で!?……その運命の神さまのお力はどんなものだったかしらね~ぇ?」


 僕たちの会話を聞いていたデメテルが、ずいっと間を割って入ってきた。かなり、負のオーラをにじませてるな、これ。


「あ、うん、そうだね!僕もそれ聞きたいな!デメテル、僕の代わりに聞いてくれてありがと。やっぱり、優しいね!」


 なるべく自然な笑顔でデメテルにお礼を言う。彼女は、返事の代わりに僕の腕に自分の腕を絡ませ、笑顔を見せてくれた。よかった、なんとか機嫌を直してくれたみたいだ。


「それで、フォル?僕に渡してくれた能力はどんな効果があるの?」

「それな、自分で言うのもなんだけど、絶対に役に立つぜ!簡単に言うと、んだ」

「え?それってどういうこと?」

「つまりだな、流星たちの世界にも、直感ってものがあるだろ?どっちを選んだらいいか分からない時に、なんとなくだけどこっちにしようって感じるやつ。それがアタシの場合、他の神よりも良い結果を選びやすくなるんだ」


 ええぇっっーー!?それ、チートなんじゃない??


「そ、それってもの凄くない!?直感を超えてると思うんだけど!未来を予知できるってこと!?」

「いや……残念だけど、そこまでじゃない。直感は直感でしかないのさ。ここ一番って時に外れることだってあるしな」


 フォルが少し遠い目をしてる。前に何かあったのかな……?


「そうなんだ。でも、ありがとう。そんな素敵な能力を共有してくれるなんて、フォルって優しいね!」


 とりあえず、聞かないでおこう。誰にだって触れられたくない過去はあるだろうし。お礼を言うと、フォルは照れを隠すようにそっぽを向いてしまった。


「さっきも言ったけど、大したことはしてないさ。でも、そうだなーアタシの感覚だと、今まで確実に八割以上は良い結果を選べたと思うぜ?」

「あなたの直感は、かなり当たるものね。いいわね~」


 デメテルが心底、羨ましそうにしてる。てことは、予知まではいかなくても相当な能力なんだなぁ。ほんと凄い!


「これって使う時はなにか、呪文を唱えたりするの?」

「ん?あぁ、いや。そーいや、まだ言ってなかったな。常時発動オート型だから、何もしなくて大丈夫だ。もう既に発動してるぜ?」

「そうなの?あ!さっき感じた、頭がスッキリしたようなスーッとしてるこの感じがそうなの?」


 確かに、頭の中が整理されたように清々しい気分だ。


「そうそう、それだ。どっちか選ぶ時も、今までと同じように普通に選べばいい。かなりの確率で良い結果になると思うぜ?あ、それとな、もう一つだけ」


 フォルが何か思い出したように手をポンと叩き、先を続けた。


「あのな、共有するとどうしても本人と比べて一枚、能力が落ちるんだ。それでもおそらく、流星の場合だと、六割くらいは良い結果になると思う」

「それでも、十分すぎるくらいだよ。ありがとう!」

「どうだ?少しは緊張解けたろ?おまじないとしちゃ上出来だろ?」

「うん!お陰で気持ちも落ち着いたし、本当にありがとうね!」

「お礼はもういいって!……でも、どういたしまして」


 若干、恥ずかしそうに手を振りながらも、今度はお礼を受け止めてくれた。フォルも良い笑顔するね。


「あ、そうだ!聞こうと思ってたんだけど、デメテルも生まれつきの能力ってあるの?」


 フォルがくれた能力の話を聞いてる時から、気になってたんだよね。


「え?も、もちろんあるわよ?で、でも、私のはつまらないものだから……」

「あー……流星、気付いてしまったか。なあ、デメテル。流星がせっかく聞いてるんだ。話してもいいんじゃないか?これから付き合うんだとしたら、いずれにしてもバレるんだぜ?」


 どうしたんだろ?二人とも。バレるって??


「ど、どうしたの……?なにかマズイこと聞いちゃったのならごめんね」

「う、ううん。そんな謝るようなことじゃないのよ。そうよね、内緒にしてても良くないわよね、よし!」


 何かを決意したようなデメテルは、大きく深呼吸をした。そして、静かに話し始めた。


「私の生まれつきの能力はね……【料理は基本と愛情と】っていうの」

「へぇ!能力の名前からすると、料理関係で何か凄いことができそうだね!凄いよ、デメテル!もしかして、料理が絶対、失敗しないとかなの?」


 僕は心から凄いと思った。デメテルは優しくて甘えん坊で、ちょっと焼きもちを焼くこともあるけど、やっぱり神さまなんだなぁ。

 でも……おかしいな。何か引っかかるような気がする。なんだろう、この得体の知れない不安な感じは……?


「……料理したものが全て黒く焦げる」


 ボソッと呟くフォル。


「……っ!?……えっ?あ!」


 その一言に僕は、戦慄した。そして、思い出した。フォルが味噌汁を振る舞ってくれた時、デメテルが何と言っていたのかを……!!


 僕は自ら、触れてはいけない事パンドラの箱実を解き放ってしまったのだ……。

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