みんなのDiVA!!
るかじま・いらみ
初音ミク❣️ 私のアイドル! 愛💕 LOVE❤️ 初音ミク!!
バーチャルアイドル、初音ミク(敬称略)の名前を初めて知ったのは、ネットニュースの見出しか何かだったと思います。
最初、それが何なのか分からなくて、特に気にかけることはありませんでした。
ただ、その後何度となく名前を目にするので、だんだんと興味が出てきました。
どうやらそれは歌を歌うキャラクターらしく、似た印象の名前を持つ『仲間』が何体かいるようでした。
調べてみると初音ミクとは、ボーカロイド(略してボカロ)と呼ばれるアナログ音声を合成して歌を作るソフトのことで、初音ミクというキャラクターはそのイメージなのだそうです。
当時私はゲームに熱中しており、ジャンルも雑食でRPGやシューティング、パズルなど、いろいろなものに手を伸ばしていました。
そして発売された初音ミクのリズムゲーム、『初音ミク —project diva』。
音楽センス皆無の私にとって、リズムゲームだけはあまりやったことのない、不得手なジャンルでした。
どうしようかな。
おもしろいのかな、これ。
買うかどうか、迷う。
そんな迷いは、レンタルビデオ店でデモ画面を見たときに一瞬で吹っ飛びました。
CGで描かれたボカロたちが華麗にダンスを踊り、今まで聴いたことがないような歌を伸び伸びと歌い、派手なエフェクトを伴うカーソルリングが流れ星のように画面中に降り注いでいるのです。
スゴい!
なんかよく分からないけど、スゴいぞ!?
発売日にすぐ買いに行きました。
その日からproject diva三昧の毎日が始まりました。
朝起きて出勤するギリギリまでプレイ、仕事が終われば寄り道せずにすぐ帰宅、食事と風呂以外は全部プレイ時間に回し、ベッドに潜っても「あとちょっとだけ……」と電気も点けず暗がりで深夜までプレイ。
何がそんなに私の心を惹きつけたのか、捉えて離さなかったのか。
ボカロの曲の大半は、プロのアーティストが作ったものではありません。
調整の甘い初音ミクの声はケロケロ声と称されるほど人間味がなく、聞き慣れないと奇妙に感じます。
それなのに不思議な魅力にあふれていたのです。
頭の中は常に彼女たちのことでいっぱいになりました。
ゲームに熱中するだけだなく、収録された曲の大元をYouTubeで探して聞いたり、初音ミクたちのイラストをネットで集めたりしました。
そして私は、なんと初音ミクのライブが開催されることを知ったのです。
実在しないバーチャルアイドルのライブ!?
一体、どうやるんだろう?
どんな感じになるんだろう?
応募してチケットを取りました。
私はそれまでアーティストのライブに行ったことはありません。
東京も何度か行ったことがあるくらい。
すべてが初体験です。
この田舎者が、はたして迷わず会場に行けるだろうか、と不安でした。
初音ミクのライブ、『マジカルミライ』、その当日。
私が取ったチケットは昼公演のものです。
朝早く新幹線に乗り、東京駅からローカル線に乗り換えて最寄り駅で降ります。
ちらほらと、自分と同じく初音ミクのコンサートに参加する人たちが歩いているのが見えました。
なぜ分かるかというと、リュックやカバンにボカロの缶バッジが付いていたり、明らかに初音ミクをイメージした
あとで知ったのですが、事前にネットで買えるグッズがあったようでした。
会場に近づくにつれて、徐々に人の流れは増えていきました。
これ全部、ライブに行く人?
みんな、自分と好きなものが同じ人……。
浮き足立つような、胸がぽかぽかと暖かくなるような、そんな気持ちになりました。
早くに着いたので、先に企画展に行くことにしました。
初音ミクに関するさまざまな展示や催しがありましたが、一番大きく印象に残っているのは『寄せ書き』です。
やって来た人たちが初音ミクの巨大なポスターに一言二言、書き記していくのです。中にはイラストを描く人もいました。
そこから感じるのは強烈な熱量です。
好き、という気持ちが放つ熱量が、その寄せ書きいっぱいにこもっていました。
ライブ会場に入り、指定された席で待ちます。
会場はすさまじい数の人間でいっぱい、席はぎゅうぎゅう詰めです。
やがて開始の時間となり、全体が暗くなりました。
バンドの演奏をバックに、スクリーンに投影されたミクさんのCGがせり上がってきました。
会場の人たちがサイリウムを振って歓声を上げます。
私も見よう見まねでサイリウムを振って、小声で「おおー」とか言ってみます。
ライブが始まりました。
スクリーンに投影されたミクさんやほかのボカロたちが、踊りながら曲を歌っていきます。
ミクさんたちの姿は、3Dに見えるよう調整された特殊なCGで映し出されていました。
そこに本当にいるのかと思うほどリアルで美しい映像です。
無論、音声は収録ですが、バンドだけは生演奏で、ミクさんたちの歌に合わせて弾いていました。
歌もバンドの演奏もすごかったですが、会場の人たちの歓声やかけ声もすごかったです。
周囲の熱狂はハンパではありませんでした。
その熱狂に巻き込まれながら、私は不思議な思いでいました。
実在しないバーチャルアイドル。
私を含め、みんなどうして、そんな、存在しないものに、ここまで心を燃やせるのだろう。
私がそこで感じていたのは、周囲との一体感でした。
好きなものが同じ人たちとの強烈な一体感、ライブ感。
それは他人とあまり関わろうとしない私にとって、初めての体験でした。
ひょっとしたら、それこそが理由なのかもしれないと思いました。
アイドルとは、みんながいっしょになって盛り上げるもの。
みんなの共通の認識として築いていく存在。
曲を通じ、歌を通じ、キャラクターを通じ、ゲームを通じ、ネットを通じ、イラストを通じ、小説を通じ、数えきれないほど多くの人たちがボカロに熱狂していました。
実在するかどうかなんて、些細な問題だったのです。
およそ二時間のライブはあっという間に終わりました。
放心して、帰りはどこをどうやって帰ったかよく覚えていません。
ただ、ライブで全エネルギーを使い果たしたのか、部屋に戻るなりグッタリと横になって、そのまま寝てしまいました。
余談ですが、私の初音ミク好きはこの後も加速し、仕事場の人にもそれとなく勧めたりしました。
しかし誰からもいい反応はなく、悔しい思いを抱き続けていました。
そんな折、主任から社内セミナーを担当するよう依頼されたのです。
イタズラ心が湧きました。
ミクさんをいっぱい使ってやる。
め、めちゃくちゃ、やってやろう♪
著作権フリーのイラストを使い、パワポのアニメーション機能で動かし、ほぼすべてのスライドでボカロを使いました。
こっそりBGMにもボカロ曲のインストゥルメンタルを流しました。
内容は真面目に作ったので叱られはしませんでしたが、今思えばよくやったなと思います。
評判はそこそこでした。
まあこんなもんか、と思いましたが、私はやり切った感で満足でした。
数日後、他部署の方がいきなり、今度二人でカフェに行きませんかと誘ってきました。
一緒に仕事をすることもあったので社交辞令だと思い、やんわりとお断りしました。
何日かたって、また誘われました。
またまた〜と思って振り向くと、相手は初音ミクのぬいぐるみを持っていました。
ギョッとしました。
そのぬいぐるみの手を動かしながら、この子もいっしょに行くから恐くないですよー、とか言うのです。
思わず笑ってしまいました。
仲を取り持ってくれた、そのぬいぐるみは、今も私の部屋の本棚の上でちょこんと座っています。
みんなのDiVA!! るかじま・いらみ @LUKAZIMAIRAMI
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