第2話 影の企業

アリスが手にしたセヴァリス・グループからの脅迫状は、彼女の心に強い不安を植え付けた。しかし、決して引き下がるわけにはいかない。何かが確実に隠されており、アリスはその真実を暴くまで止まらない覚悟を決めていた。


次の日、アリスは図書館の中で、再びセヴァリス・グループに関する情報を集めることにした。表向きの資料を調べても、彼女の疑念が晴れることはなかった。セヴァリス・グループは、再生可能エネルギー分野で名を馳せ、各国政府や大企業と密接な関係を築いているとされていた。しかし、その企業の実態については、誰も真剣に調査を行っていないようだった。


アリスは、セヴァリス・グループに関する過去の記録がすべて白紙であることに気づく。それは、1990年代初頭に設立され、その後急速に世界規模で成長したが、その設立者や創業者に関する情報がまったく残されていない。各国の政府機関や国際機関にも顔が広く、さまざまな国際会議に参加しているが、グループの内部構造については一切触れられていない。


この異常な秘密主義の背後には何かがある。アリスは、他の学者やジャーナリストが手に入れていない資料を求めて、さまざまなアーカイブを漁り始めた。その過程で、アリスはふとした瞬間に不自然な点に気づく。


「これ、何だ?」アリスはある記事を見つけた。1993年、セヴァリス・グループの設立当初から活動をしていたと思われる人物が突然姿を消し、そして翌年に再登場したという記録があった。消えていた期間はほぼ1年で、その間の記録は一切ない。その人物が「セヴァリス・グループの影のリーダー」だった可能性があることに気づいた。


アリスがその人物について調べていると、図書館の片隅から不穏な視線を感じた。ふと顔を上げると、隣の席に座っていた男と目が合った。その男はアリスに微笑みかけ、何気なく声をかけてきた。


「その資料、面白いですね。セヴァリス・グループについて研究しているんですか?」


アリスは少し警戒しながらも、無意識に頷いた。「ええ、そうです。あなたも興味があるんですか?」


男は軽く肩をすくめた。「まあ、ちょっとだけ。実は、セヴァリス・グループに関連した記事を何度か読んだことがあるんです。面白いですよね、あの企業。」


アリスはその男が何か知っていると感じたが、同時に警戒心も覚えた。彼があまりにも自然に話しかけてくることが逆に不気味だった。男はしばらく話してから立ち上がり、サラリと一言残して去っていった。


「もし、何か困ったことがあれば、連絡ください。私は情報通なので。」


その後、男の言葉が頭から離れなかった。あの男はただの通りすがりの研究者だったのだろうか?それとも、セヴァリス・グループの誰かと繋がっているのか?


アリスはその晩、再び手に入れた資料を読み直していた。すると、偶然にも「セヴァリス・グループ」の設立に関する一つの名前が浮かび上がった。その人物は「ラザフォード」と呼ばれ、1992年から1994年にかけて急激にセヴァリス・グループを牽引したとされる。しかし、彼の名前はそれ以外の記録にはほとんど登場しない。


アリスはその名前に強く引き寄せられ、ラザフォードに関する情報を集め始めた。すると、驚くべき事実が判明する。ラザフォードという人物は、実は多国籍企業の巨大ネットワークを築き上げるために秘密裏に活動していたということが、かろうじて記録に残っていた。そして、その人物の名前は、アリスが調べていた「影の政府」の中枢と深く関連していることが明らかになった。


その時、アリスの部屋のドアが勢いよくノックされ、彼女は跳ね上がった。ドアを開けると、そこには見覚えのない警官が立っていた。警官は無表情で一言、「アリス・フランクリンさんですか?」と尋ねた。


「何かご用ですか?」アリスは警戒しながら尋ねた。


「少しお話を聞かせていただきたい。」警官は冷たく答えた。


その言葉に、アリスは心臓が跳ねるのを感じた。何かが、急速に近づいてきている。それは、ただの警察の訪問ではない。何か大きな力が彼女を圧迫し始めた瞬間だった。

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