【異星人外交官】砂嵐

ロックホッパー

 

【異星人外交官】砂嵐

                          -修.


 「所長、発着床が煙ってきました。霧でしょうか。」

 銀河連邦のエージェントとして最初の異星人が地球に来訪して以来、毎年のように次々と異なる異星人が表敬訪問するようになった。このため、地球政府は宇宙港に異星人専門の外交機関を設置した。

 部下から話しかけられた所長は、宇宙船の発着床を映しているディスプレイを見つめた。

 「昼間に霧ということはないだろう。砂ぼこりではないかな。」

 宇宙港は、不慮の事故を想定して、人口密度の低い大陸の外れにあった。数十キロ先には砂漠があり、風向によっては砂ぼこりが飛んでくることもある。

 「そうですね。だとすれば一時的なものでしょうね。」

 「そうだな。」

 所長はいつものことだと見なし、デスクワークに戻った。宇宙港は異星人専用のため、年に数回程度の異星人の来訪時以外はそれほど忙しくはない。もちろん、異星人が来訪すると、音声なのか、電波なのか、何なのか分からない異星人のコミュニケーション手段と、その手段で伝達される言語の理解のために不眠不休で解析を続けなければならなくなる。


 しばらくして再び部下が話しかけてきた。

 「所長、砂ぼこりが全然収まらないです。ますます視界が悪くなって、砂嵐のようになっています。」

 「なんだと・・・」

 所長は改めて発着床を映しているディスプレイを見た。そこには見通しが全く効かなくなるほどの砂嵐が映っていた。

 「今、外の風速はいくらだ。」

 「所長、毎秒2mです。」

 「毎秒2mだって、そよ風じゃないか。なぜ、砂嵐になるんだ・・・」

 「所長、見てください。砂嵐は発着床のところだけです。」

 部下が指さした、宇宙港の外を映したディスプレイは視界良好な晴天の景色となっていた。

 「これはいったい・・・。もしかすると砂嵐にまぎれて異星人の宇宙船が着陸しているかもしれない。とりあえず、発着床の一番端のエレベーターからエージェントロボットを出してみよう。」

 「了解です。」

 部下はコンソールを操作し、発着床に吹き荒れる砂嵐の手前にエージェントロボットを出した。エージェントロボットは人型のロボットで、異星人のコミュニケーション手段を探るための多種のセンサー類を持ち、音声・電波の出力はもちろん、身振り手振りでのコミュニケーションもできるようになっていた。


 そしてエージェントロボットの全身が発着床に現れた瞬間、突然、砂嵐が消えた。しかし、そこには宇宙船の姿はなく、遠くの景色が鮮明に見えていた。

 「所長・・・・」

 「何もないな。いったい何だったのだろう。発着床が砂だらけになっただけか・・・」

 「そうですね。ん、あれ?」

 「どうした。」

 「所長、発着床の砂の後を見てください。なんだか線を引いたみたいに、きっちり一箇所に集まっていますよ。」

 発着床の砂はきれいな円を形作っていた。

 「これは何か意味があるかもしれんな。エージェントロボットを慎重に近づけて、少しサンプルを採取してみよう。」

 部下はコンソールを操作し、エージェントロボットを砂の近くに移動させていった。

 「じゃ、少し手で取りますよ。」

 その時、砂は意思があるかのように手の回りから逃げていった。

 「んんん・・・、所長、今逃げましたよね?どういうこと・・」

 「判らんな。砂を拡大してみてくれないか。」

 部下が再びコンソールを操作し、エージェントロボットが砂をズームしていくと、それは単なる砂粒ではなさそうだと分かった。ズームが進むにつれて、砂粒は金属光沢を放つ人工物のように見えてきた。

 「もしかして、宇宙船なのか・・・」

 所長が小さくつぶやいた。それは大きさ1mmにも満たない宇宙船だった。とてつもない数の宇宙船団が砂嵐のように見えていたのだ。

 「宇宙船がこの大きさだと、俺たちが今からファーストコンタクトする宇宙人はいったいどんな大きさなんだ・・・」

 宇宙人のコミュニケーション手段が何であれ、センサーが拾えるレベルだろうか。所長は、せめて顕微鏡と巨大な収音マイクが必要ではないかと思い始めていた。

 「うーん、今回は骨が折れそうだな・・・」


 所長が頭を抱えていたそのとき、部下が叫んだ。

 「所長、見てください。砂嵐がまた始まりましたよ。」

 発着床はまた砂嵐に包まれていた。

 「今度はなんだ?」

 砂嵐は見る間に、何らかのパターンを描き出した。それは、無数の宇宙船によって作られた映像だった。そして、それは地球側が理解できる自然数の表現から始まる言語体系の説明だった。


 今回来訪した宇宙人が、地球人の身長を理解しているかどうかは不明だが、少なくとも自分たちがものすごく小さいということは認識していたのだろう。このため、無数の宇宙船による映像を異星人とのコミュニケーション手段としているようだった。


 宇宙人の姿は、数週間後、言語の理解が進み、電波による映像のやり取りか可能となって初めて地球人の知るところとなった。


おしまい

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