第55話

周りを片付けたり、寛人に出す為のお菓子をテーブルに出したりしていると、玄関のチャイムが鳴った。


「は~い。開いてるよ~」

声は聞こえなかったが、寛人だと思ったので、部屋から返事をした。

俺はそのまま、コップにジュースを入れる。

カチャ、と控えめな音がして、ドアを開けて入ってくる足音がする。

「こんにちは~」

ビンゴ。

寛人だ。

満面な笑顔を向けて、俺に声をかける。

手には、お土産らしい、みかん。

「さ、座って座って~」

俺も笑顔を向けて促す。

それなのに。

寛人の顔は見る見るこわばった。

え?

何で…、あ。

横から泰良がひじで俺をつつく。

そうだった。あまりにも泰良が静かなんで、(身の回りを整えていたらしい)存在を忘れてた…。

「えっと、こっちは、仕事仲間の泰良。今日、遊びに来ててさ。寛人と遊んでみたいっていってたから、用は終わったんだけど、そのままここにいるんだ。初めてだけど、仲良くしてやってくれよな?」

泰良は笑顔を作って挨拶する。

「こんにちは。関口泰良です。無理言っちゃってごめんね?

今日は色々話してくれると嬉しいな」

普通の口調ですらすらと喋る泰良。

いい声してるんだから、そのままでしゃべってくれよ~、と心の中で祈る。

寛人は会釈をし、「こちらこそ」とぎこちない笑顔を浮かべる。

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