LUNA

そら

第1話

「けほ、けほっ…」

「あ、ごめん。大丈夫?」


私の目の前で、煙草を燻らせる彼。

悪びれもなく2本目に突入しようとするから、こちらも容赦なくチョップを食らわせる。

「もう…!」

「ごめんって笑 ほら、お前も」

その手をするりと抜けて、ベランダの柵に寄りかかる。

ぽっかりと空に浮かぶ月と、ふわりと浮かぶあなたの煙草の煙。

ふと、Eラインがきれいなあなたのくちびるに、そっとキスを落とす。

甘くて、苦い、そんな味がした。

「…月が綺麗だね」

「…え?」

「なんでもない笑」

ほんとは聞こえてたなんて言ったら、どんな反応をするんだろう。

A.M2:00の静かな、肌寒いくらいのベランダで2人肌を寄せあって見た月は、怖いくらいに綺麗で、まん丸だったのを覚えてる。


あれからどれだけ月を見たのだろう。


『LUNA』


横を向くと、彼が好きだった煙草の箱が1つ。

あぁ、月…


忘れてしまいたい香りは、今もまだ、ハッキリと思い出せてしまう。

きっとまだまだ、消えないのだろう。

「…ばーか、笑」


暗闇に弾ける雫

傾けたグラスに、カランとなる氷

3度の熱で、脳を揺らす


少し低めの体温

心地よい重低音の声

熱を孕んだ瞳

もう、忘れたいのに…笑


私はまだ、はっきりと思い出せちゃう。

私のこの気持ちも、あの煙に乗せて、伝えておけばよかったな。

なんてさ、もう遅いんだよね


1人ぼうっと見つめる、A.M2:00の月


月が、綺麗でした。


LUNA

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LUNA そら @soratyann

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