第3話:全裸監督、学校に立つ!?
## 第一章:新任美術教師の謎
「おはよう!あれ?ハジメ、どうしたの?その顔」
月曜日の朝、教室に入ってきたユイは、妙に暗い表情のハジメを見て心配そうに尋ねた。
「ああ…ユイか。実はさ、週末、校長先生の甥っ子のタケル君と遊んでたんだよ」
「タケル君?あの、私たちが裏山で見つけた子ね」ユイはタブレットを机に置きながら言った。「いつの間に仲良くなったの?」
「校長先生に頼まれてさ、一緒に遊んであげることになったんだ」ハジメは少し照れながら答えた。「意外と面白い子でさ、一緒に秘密基地作ったりしてたんだけど…」
「それで、何があったの?」ユイは椅子に座りながら尋ねた。
「タケル君が通ってる美術教室の話を聞いてさ…」
その時、教室の扉が勢いよく開き、ケンジが飛び込んできた。
「ハジメ隊長!ユイ!大変だよ!」
ケンジは息を切らしながら二人に駆け寄った。
「なんだよケンジ、朝からそんなに騒いで」ハジメは少し驚いた表情で言った。
「美術教師の噂、聞いた?」ケンジは小声で言った。「なんでも、子どもたちに『全裸デッサン』を教えてるんだって!」
「え!?」ハジメが立ち上がった。「じゃあ、やっぱり…」
「やっぱり?」ユイとケンジが同時に尋ねた。
「実はさっき言いかけてたんだ」ハジメは座り直しながら説明し始めた。「タケル君が通ってる美術教室の新しい先生が、ちょっと変わった人みたいなんだ。『芸術に服は必要ない』って言ってるんだって」
「でも、子供向けの美術教室で、まさか…」ユイは眉をひそめた。
「いや、今のところは普通の授業をしてるらしいよ」ハジメは急いで付け加えた。「でも、タケル君が言うには、先生が『次回は特別授業』って言ってたんだって」
「特別授業?」ケンジが身を乗り出した。
「うん。『本物の美術を教える』って」
三人は顔を見合わせた。
「ねえ、その先生の名前って…」ユイが何か思い出したように言いかけた時、教室の扉が開き、担任の松本先生が入ってきた。
「おはよう、みんな。席に着きなさい」
生徒たちが席に着く中、松本先生は明るい表情で言った。
「今日はみんなに嬉しいお知らせがあります。今週から美術の授業を担当してくださる新しい先生を紹介します」
教室のドアが開き、一人の男性が入ってきた。
30代後半、すらりとした体型、穏やかな表情の男性。どこか見覚えのある顔だった。
「岡本芸術先生です」
「よろしくお願いします。岡本真一と申します」
彼が挨拶すると、ハジメ、ユイ、ケンジは目を丸くして顔を見合わせた。
その顔は、間違いなく、あの仮面の下に隠されていた「ミスター・ピルエット」だった。
「えぇっ!?」思わずハジメが声を上げそうになったが、ユイが慌てて彼の足を踏んで止めた。
岡本先生は三人の方をちらりと見て、ほんの少し微笑んだように見えた。
「私はこれまで世界各国で芸術活動をしてきましたが、この度、故郷に戻ってきました。みなさんに本物の芸術の素晴らしさを伝えたいと思っています」
クラスの生徒たちはワクワクした様子で、小さなざわめきが起こった。
「岡本先生は世界的に有名な芸術家で、この学校に来てくださることになりました」松本先生が嬉しそうに説明した。「明日から美術の授業を担当してくださいます」
「よろしくお願いします」岡本先生は丁寧にお辞儀をした。
授業が始まり、三人はなかなか集中できない様子だった。
昼休み、三人は校庭の隅にある秘密基地に集まった。
「なんでミスター・ピルエットが美術の先生に!?」ケンジが興奮した様子で言った。
「彼、バレエダンサーだったよね?」ハジメも混乱している。
「調査してみましょう」ユイはタブレットを操作し始めた。「岡本真一…あった!彼はバレエだけでなく、現代美術でも活動しているみたい。『人間の動きと形を追求するアーティスト』って書いてある」
「へぇ、すごいな」ハジメは感心した様子だった。
「だけど、タケル君の言ってた『全裸デッサン』の話と関係あるのかな?」ケンジが首を傾げた。
「その可能性は高いわ」ユイが真剣な表情で言った。「美術の世界では、人体デッサンは基本的な技術だから。でも、小学生向けの授業で『全裸』はさすがに…」
「よし、調査しよう!」ハジメが決意を新たにした。「岡本先生が何を計画しているのか、見極めるんだ!」
「でも、あの時は僕たちを助けてくれたよね」ケンジが少し迷った様子で言った。「悪い人じゃないと思うんだけど…」
「だからこそ、直接話してみるべきね」ユイが提案した。「放課後、美術室に行ってみましょう」
三人は頷き合った。新たな調査が始まろうとしていた。
## 第二章:芸術家の情熱と子どもたちの戸惑い
放課後、三人は美術室に向かった。ドアを開けると、岡本先生は一人で大きなキャンバスに向かって絵を描いていた。
「あの、岡本先生?」ハジメが声をかけた。
岡本先生は振り返り、三人を見て微笑んだ。
「やあ、君たち。来てくれたんだね」彼は筆を置いた。「実は会いたかったんだ」
「僕たちのこと、覚えてたんですか?」ハジメが驚いた様子で尋ねた。
「もちろん」岡本先生は明るく笑った。「駅前の『ピンクタイツ事件』を解決してくれた勇敢な子どもたちだよ。忘れるわけがない」
「すみません、突然質問なんですけど…」ユイが真剣な表情で言った。「先生は美術教室で『全裸デッサン』の授業をする予定なんですか?」
岡本先生は一瞬驚いたように見えたが、すぐに落ち着いた表情になった。
「ああ、そういう噂が広まっているのか」彼はため息をついた。「正確に言うと、私は『人体デッサン』の重要性を教えたいと思っているんだ」
「人体デッサン?」ケンジが首を傾げた。
「うん」岡本先生は熱心に説明し始めた。「美術の基本は人間の形を理解することなんだ。バレエも同じさ。体の動きを理解し、表現すること。それが芸術の本質なんだよ」
「でも、それって…全裸ってこと?」ハジメが恐る恐る尋ねた。
岡本先生は少し考えるように間を置いた。
「本来の美術教育では、確かに裸のモデルを描くことがあるよ。でも、それは大人の美術学校での話だ」彼は真剣な表情で続けた。「子どもたちには、もちろん別のアプローチをとるよ」
「どんなアプローチですか?」ユイが鋭く尋ねた。
「例えば、体操着姿での簡単なポーズをとって、動きの線を捉える練習をしたり」岡本先生は説明した。「あるいは、石膏像や人体模型を使ったりね」
三人はほっとした表情を見せた。
「でも、タケル君が言うには…」ハジメが言いかけると、岡本先生は少し複雑な表情を見せた。
「ああ、タケル君か。彼は誤解しているかもしれないね」岡本先生は窓の外を見ながら言った。「実は先日、美術教室で大人向けのセミナーについて話していたんだ。そこで『本格的な人体デッサン』について触れたんだけど…」
「それをタケル君が聞いて、勘違いしたんですね?」ユイが理解したように言った。
「そうかもしれない」岡本先生は頷いた。「子どもたちには、年齢に合った適切な教育をするつもりだよ。心配しなくても大丈夫」
三人は安心したように見えたが、ハジメはまだ何か引っかかるものを感じているようだった。
「でも先生、校庭で何か特別な授業をする計画があるって聞いたんですけど…」
岡本先生の表情が一瞬こわばった。
「ああ、それか…」彼は少し躊躇するように言った。「実は明後日、校庭で『自然と芸術』というテーマの特別授業を計画しているんだ。校長先生にも許可は取ってあるよ」
「自然と芸術?」三人は顔を見合わせた。
「そう、屋外で自然光の中で描くことの素晴らしさを体験してもらうんだ」岡本先生は熱心に説明した。「そして、特別なゲストを招いて、本物のアーティストの仕事を見てもらおうと思っているんだ」
「特別なゲスト?」ケンジが好奇心いっぱいの表情で尋ねた。
「それはまだ秘密だよ」岡本先生は微笑んだ。「でも、すごく驚くと思うよ」
「そうですか…」ハジメはまだ何か引っかかるものを感じているようだった。
「心配しないで」岡本先生は彼らの肩に手を置いた。「私は君たちの活動を尊重しているよ。だから約束する。私の授業で、誰かを傷つけたり、不快にさせたりすることはないよ」
三人は彼の言葉に少し安心した様子だったが、まだ完全には納得していない様子だった。
「もし心配なら、明後日の特別授業を見に来てもいいよ」岡本先生は提案した。「君たちなら、私の芸術観を理解してくれると思う」
「はい、ぜひ見せてください」ユイはきっぱりと言った。
三人は美術室を後にし、校庭に出た。
「どう思う?」ハジメが二人に尋ねた。
「私は少し心配だわ」ユイが正直に答えた。「岡本先生は良い人だと思うけど、芸術家って時々、普通の人とは違う感覚を持っているから…」
「うん、前回のレインボーマンみたいに、『芸術』と思って、周りが見えなくなることもあるよね」ケンジも頷いた。
「明後日の特別授業、しっかり見張りに行こう」ハジメは決意を新たにした。「もし変なことになりそうだったら、すぐに止めるんだ!」
「その前に、校長先生にも確認しておいた方がいいかも」ユイが提案した。「本当に許可を取っているか、どんな内容か知っているのか」
「そうだな!」ハジメは頷いた。「よし、明日、校長室に行こう!」
三人は決意を新たにし、それぞれの家路についた。
翌日、昼休みになるとすぐに、三人は校長室へと向かった。
「失礼します」ハジメがドアをノックした。
「どうぞ」校長先生の声が聞こえてきた。
三人が入ると、校長先生は書類の山に埋もれるようにして座っていた。
「ああ、露出魔退治クラブの諸君か」校長先生は優しく微笑んだ。「何か用かな?」
「はい、新しい美術の先生について質問があります」ハジメが真剣な表情で言った。
「岡本先生のことかな?素晴らしい方だよ。世界的なアーティストを招聘できて、学校としても光栄なことだ」校長先生は自慢げに言った。
「明後日の特別授業のことなんですが」ユイが切り出した。「内容をご存知ですか?」
校長先生は少し考え込むように眉を寄せた。
「ああ、校庭で行う『自然と芸術』の授業だね。岡本先生から企画書をもらったよ」
「その授業に…モデルさんは来るんでしょうか?」ケンジが恐る恐る尋ねた。
「モデル?」校長先生は少し混乱した様子だった。「ああ、確かプロのアーティストが来るとは聞いているが…」
「その方は、服を着ていますよね?」ハジメが思い切って質問した。
「服を…?」校長先生は驚いた表情になった。「もちろんだ!なぜそんな質問をするんだい?」
三人は顔を見合わせた。
「実は、岡本先生が『人体デッサン』を教えようとしているという噂があって…」ユイが説明し始めた。
校長先生は顔を真っ赤にして立ち上がった。
「なんだって!?そんな話は聞いていないぞ!」
「でも、タケル君が美術教室で…」ハジメが言いかけると、校長先生の表情が変わった。
「ああ、タケルか…」校長先生はため息をついた。「実は最近、タケルは少し想像力が豊かすぎて…事実と創作の区別があいまいになっているんだ」
「え?」三人は驚いた表情で校長先生を見つめた。
「タケルは漫画家になりたいと言って、最近はストーリーを考えるのに夢中でね」校長先生は苦笑いをした。「時々、自分の考えた物語と現実を混同することがあるんだ」
「そうだったんですか…」ハジメは少し安堵したように言った。
「でも、念のため確認します」校長先生は真剣な表情になった。「明日、岡本先生と詳しく話し合ってみるよ。ありがとう、君たちのおかげで大事なことに気づくことができた」
三人は校長室を後にした。
「どうやら誤解だったみたいだね」ケンジは肩をすくめた。
「でも、念のため明後日の特別授業はしっかり見ておこう」ハジメは決意を新たにした。「正義の名のもとにね!」
「それが露出魔退治クラブの使命ですからね」ユイも頷いた。
三人はそれぞれの教室に戻ったが、ハジメの心には、まだ何か引っかかるものが残っていた。
## 第三章:校庭に立つ芸術の真実
特別授業の日がやってきた。
校庭には大きなキャンバスがいくつも並べられ、岡本先生が中央に立って準備を整えていた。生徒たちは興味津々といった様子で集まっていた。
「いよいよだな」ハジメは緊張した面持ちで言った。
「大丈夫、変なことになりそうだったら、すぐに止めよう」ユイが決意を新たにした。
「そうだね!」ケンジも頷いた。
岡本先生が拍手をして、生徒たちの注目を集めた。
「みなさん、今日は特別な授業です」彼は明るく言った。「『自然と芸術』というテーマで、屋外での創作活動を体験しましょう」
生徒たちから小さな歓声が上がった。
「そして、今日は特別なゲストをお招きしています」岡本先生は続けた。「世界的に有名なアーティストで、私の古くからの友人でもあります」
岡本先生が手を振ると、校門から一人の人物が歩いてきた。
それは50代くらいの外国人男性で、カラフルなシャツと帽子を身につけていた。どこか陽気な雰囲気の持ち主だった。
「マルコ・カラバッジオ氏です」岡本先生が紹介した。「現代美術の世界では、『色彩の魔術師』として知られています」
生徒たちはその派手な出で立ちに驚いた様子だった。
「ようこそ、みなさん!」マルコ氏は流暢な英語で挨拶した。岡本先生が通訳を務めた。
「今日は、色と形と動きの素晴らしさを体験してもらいます!」
ハジメたちは、まだ警戒を解いていない様子だった。
「では、今日の特別授業を始めましょう」岡本先生が続けた。「今日のテーマは『動きの中の人間』です。人間の体の動きを捉え、表現する方法を学びましょう」
その言葉を聞いて、ハジメたちは顔を見合わせた。
「さあ、みなさん」岡本先生は笑顔で言った。「実は今日は特別に、運動会の練習も兼ねた授業です。体育の先生と協力して、美術と体育のコラボレーション授業を行います!」
体育館から体育の先生たちが出てきて、生徒たちを整列させ始めた。
「みんな、今から運動会の種目を練習します!」体育主任の山田先生が大きな声で言った。「そして、その様子をスケッチしてみましょう!」
「ええっ?」ハジメは驚いた様子で言った。「人体デッサンって、これのこと?」
「そう見えるわね」ユイは少し安堵した様子だった。
生徒たちは二つのグループに分けられた。半分は運動会の種目(リレーや組体操など)を練習し、もう半分はその様子をスケッチする。そして途中で役割を交代するという内容だった。
「これは…普通の授業じゃない?」ケンジが首を傾げた。
そのとき、マルコ氏が中央に立ち、何やら荷物から取り出し始めた。
「何してるんだろう?」ハジメが不安げに言った。
マルコ氏が取り出したのは、大きな風船と、カラフルな絵の具だった。
「今日は特別な技法を紹介します!」マルコ氏は岡本先生の通訳を通じて説明した。「動きのアート!これは世界の一流アスリートたちと共同開発した技法です!」
彼は風船に絵の具を入れ、それを地面に置いた。そして、短距離走の姿勢を取り、風船の上を走り抜けた。風船は弾けて、地面に色のついた足跡と、カラフルな模様が広がった。
「わあ!」生徒たちから歓声が上がった。
「これがアクション・ペインティングです!」マルコ氏は嬉しそうに言った。「体の動きが直接キャンバスになるんです!」
次々と風船が用意され、生徒たちは順番に走ったり、跳んだり、様々な動きをして風船を弾かせていった。校庭は次第にカラフルな足跡と色模様で埋め尽くされていった。
「これ、すごく楽しそう!」ケンジは目を輝かせた。
「確かに…」ハジメも笑顔になっていた。
「私たち、完全に勘違いしてたわね」ユイは安堵の表情を浮かべた。
そこに桐山先生がやってきた。
「楽しそうね、子どもたち」
「桐山先生!」三人は振り返った。
「岡本先生の授業、素晴らしいわね」桐山先生は微笑んだ。「アートって、こうやって体全体で表現するものでもあるのよ」
「はい、とても楽しいです!」ケンジは嬉しそうに答えた。
その時、マルコ氏が岡本先生と何か話し合っているのが見えた。マルコ氏は何かを主張しているようで、岡本先生は困った表情を見せていた。
「あれ?何か揉めてるみたい」ハジメが気づいた。
「行ってみましょう」ユイは二人に声をかけた。
三人が近づくと、マルコ氏の声が聞こえてきた。
「もっと本格的なアクション・ペインティングをしたい!全身で表現するんだ!」
岡本先生は困った表情で答えていた。
「マルコ、ここは日本の小学校だよ。そういうのは…」
「芸術に国境はない!」マルコ氏は熱く語っていた。「子どもたちに本物を見せよう!」
そしてマルコ氏は突然、シャツのボタンを外し始めた。
「あっ!」ハジメが驚いた声を上げた。
「マルコ、やめたまえ!」岡本先生が慌てて止めようとした。
その時、ハジメが前に飛び出した。
「ストップ!」
ハジメの大きな声に、マルコ氏は動きを止めた。
「ここは小学校です!そういうことはダメです!」ハジメは真剣な表情で言った。
岡本先生が通訳すると、マルコ氏は驚いた表情になった。
「なぜだめなんだ?私はただ自分の体で絵を描きたいだけだ!」
「マルコ氏」ユイが落ち着いた声で言った。「あなたの芸術は素晴らしいと思います。でも、場所と状況を考えることも大切です。ここは子どもたちが学ぶ場所です」
岡本先生が通訳すると、マルコ氏はしばらく考え込んだ。
「子どもたちは…傷つくかい?」マルコ氏が尋ねた。
「傷つくというより、混乱すると思います」ケンジが答えた。「僕たちにはまだ理解できないことがあります」
マルコ氏はしばらく考え込み、ため息をついた。
「わかった。君たちの言うことはもっともだ。私は国が違えば文化も違うことを忘れていた」
彼は丁寧にシャツのボタンを閉め直した。
「別の方法で、私の芸術を見せよう」
マルコ氏は大きなビニールシートを広げるよう指示した。そして、絵の具で満たされた風船をいくつか準備した。
「これが私の『爆発する色彩』だ!」
彼は上着を脱いで作業しやすくしたが、下にはTシャツを着ていた。そして、風船の上を飛び跳ねたり転がったりしながら、色鮮やかな模様を作り出していった。
生徒たちは大喜びで、次々とその様子を見学したり、スケッチしたりした。
「これこそがアクション・ペインティングだ!」マルコ氏は嬉しそうに言った。「体全体で表現する芸術!でも、服を着たままでも十分表現できるんだよ!」
岡本先生はほっとした表情でハジメたちに近づいた。
「ありがとう」彼は小声で言った。「マルコは天才だけど、時々常識を忘れてしまうんだ。彼の母国では、アーティストが上半身裸で作品を作ることもあるからね」
「理解できます」ユイが頷いた。「芸術と文化の違いですね」
「君たちのおかげで、素晴らしい授業になった」岡本先生は微笑んだ。「本当の芸術は、形式よりも表現そのものが大切なんだということを、マルコも理解してくれたよ」
校庭には色とりどりの巨大なアート作品が完成し、生徒たちは歓声を上げていた。
「すっごい…」ハジメは感嘆の声を上げた。「これも芸術なんだね」
「うん、素敵!」ケンジも目を輝かせていた。
「アートには様々な形があるのね」ユイも感心した様子だった。
校長先生が近づいてきて、満足そうに言った。
「素晴らしい授業だった!岡本先生、マルコ氏、ありがとうございます!」
マルコ氏は嬉しそうに手を振った。
「来年も来るよ!もっと素晴らしいアートを一緒に作ろう!」
生徒たちから大きな拍手が沸き起こった。
特別授業は大成功に終わり、予想していたような「全裸デッサン」の心配は杞憂に終わった。ただ、もしハジメたちが注意していなければ、マルコ氏の芸術熱が暴走していたかもしれない。
「やっぱり私たちの存在は必要だったのね」ユイが満足そうに言った。
「うん!露出魔退治クラブ、今日も成功!」ハジメは胸を張った。
「でも、実は何も問題なかったね」ケンジは少しおかしそうに笑った。
「いや、問題になりかけたでしょ?」ハジメは真面目な顔で言った。「もし僕たちがいなかったら、マルコさんは本当に服を脱いじゃったかもしれないよ」
「それは確かにね」ユイも頷いた。
「岡本先生は良い人だけど、海外の友達は文化の違いを理解してなかったみたいだね」ケンジが言った。
「うん、文化の違いっていうのは難しいんだね」ハジメは考え込むように言った。
三人は校庭の端に立ち、色鮮やかな「アクション・ペインティング」の作品を眺めていた。それは混沌としながらも、不思議な調和を感じさせる美しいものだった。
## エピローグ:桐山先生の視点と次回予告
放課後、保健室で桐山先生は校長先生と話をしていた。
「結局、『全裸監督』の噂は誤解だったわけですね」桐山先生は微笑みながら言った。
「ああ」校長先生はため息をついた。「あの子たちの誤解と、タケルの想像力が生み出した噂だったようだ。しかし、彼らが警戒してくれたおかげで、マルコ氏の…文化的な行き違いも防げたようだね」
「露出魔退治クラブの子たちは、本当に頼もしいわ」桐山先生は嬉しそうに言った。
「そうだな」校長先生は頷いた。「彼らの活動は、時に過剰反応することもあるが、子どもたちの安全を守る上で重要な役割を果たしている」
「それにしても」桐山先生は窓の外を見ながら言った。「この学校、何故か『脱ぎたがる大人』が集まってくるのが不思議ですね」
二人は顔を見合わせて笑った。
「次は何が起きるか…」校長先生は頭を抱えるようにして言った。「次の保護者会で、温泉旅行の計画があるんだが…」
「温泉ですか?」桐山先生は少し驚いた表情で言った。
「ああ、5年生の自然体験学習で、温泉のある施設に宿泊する予定なんだ」校長先生は説明した。「しかし、最近その温泉地で『混浴の歴史を守る会』という団体が活動を始めたと聞いて…」
「まあ!」桐山先生は目を丸くした。「それは心配ですね」
「ああ…」校長先生は深いため息をついた。「露出魔退治クラブの子たちが5年生になったら、きっとまた大活躍することになるだろうな」
「その前に、彼らがタオル一枚でどう戦うか…想像すると面白いわね」桐山先生はクスリと笑った。
「タオル一枚で正義を貫く…か」校長先生も少し笑みを浮かべた。「それも、彼らなら何とかしてくれるだろう」
「しかし」桐山先生は真面目な表情に戻った。「子どもたちに芸術と露出の境界線、文化の違いを理解させるのは難しいことね」
「そうだな」校長先生は頷いた。「しかし、彼らは実体験を通じて学んでいる。それが一番の教育だと思うよ」
二人はしばらく黙って窓の外を眺めていた。校庭には、今日の特別授業で作られた色鮮やかなアート作品がまだ残されていた。
「芸術とは何か…」桐山先生はつぶやいた。「形ではなく心なのかもしれないわね」
「ああ」校長先生は静かに頷いた。「岡本先生がよく言っていたよ。『真の芸術は、心を動かすもの』だとね」
「素敵な言葉ね」桐山先生は微笑んだ。「子どもたちも、少しずつ理解し始めているわ」
窓の外では、ハジメ、ユイ、ケンジの三人が校門を出ていくところだった。彼らの笑顔は、今日一日の達成感を物語っていた。
「さて、明日からはまた普通の日常が戻ってくるわね」桐山先生は言った。
「そうだといいがね」校長先生は苦笑いした。「この学校、何故か波乱が絶えないからな…」
二人は顔を見合わせて笑い、それぞれの仕事に戻っていった。露出魔退治クラブの新たな冒険は、まだ始まったばかりだった。
**――次回予告――**
「温泉旅行で大ピンチ!?」
「タオル一枚で正義を貫けるか!?」
「混浴の歴史を守る会、突如女湯に突入計画!?」
露出魔退治クラブ、クラス旅行で大活躍!?文化と伝統の名のもとに暴走する大人たちに、子どもたちはどう立ち向かう!?
桐山先生の意外な過去も明らかに!?
次回「温泉街の怪!混浴おじさん軍団」お楽しみに!
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