第四章 チートスキル、発覚
第19話(イリス視点)わたくしのメーロが
「た、大変です、皆様……!」
転がるようにして部屋に入ってきたのは、確か王都の警備隊隊長を務める男だ。
皆様、と言いつつ、彼の眼差しは真っ直ぐに第一王子へ向けられている。
イリスの兄、レオーネ・フォン・フリューゲルに。
今日は、不定期に開催される兄妹全員による食事会の日だ。既に他国へ嫁いだ第二王女を除き、六人が集まっている。
王妃の息子であり、王太子でもある第一王子のレオーネ。
裕福な貴族の娘を母に持ち、レオーネへの対抗心を燃やす第二王子のアルフレード。
軍人としての優れた資質と能力を持ち、異国の血を引く第三王子のファルコ。
派手好きで社交界を支配している、第二王女のカテリーナ。
世俗を嫌い、芸術を愛する引きこもり気味の第四王子、ルカ。
そして、イリス。
ルカとは同年に生まれたが、イリスは兄妹の中で末っ子だ。しかし普通の兄妹のように、末っ子だからといって可愛がられたことは一度もない。
だから、今日の集まりもすごく気が重かったんだけど。
大変です、という知らせを喜ぶつもりはないが、今日の食事会が中断されそうなことは素直に嬉しい。
喜びを悟られないように、ナプキンで口元を覆った。
「何があったんだい? 落ち着いて話してくれないか」
穏やかな声音で、レオーネが問いかける。貴族の令嬢がこぞって熱を上げる整った美貌に、優雅な所作。
おまけに聖人と称されるような性格の持ち主であり、国民からの人気も高い王太子。
いつ見ても、腹が立つくらい完璧な人ね。
「王都で火事が発生したんです」
「火事?」
「はい。住宅街の中にある一軒が火元のようで……」
「もしかして、火災が広がっているのか? 消火活動は?」
「既に消火活動は終わっていますし、派手な火事でしたが、死者どころか負傷者も一人もいません」
警備隊隊長の言葉にほっとしつつ、内心で首を傾げる。
王都の安全をつかさどる警備隊は、王太子が管理している。そのため火事をレオーネに報告するのは当たり前のことだ。
でも、わざわざ食事会に乗り込んできてまで、無事に終わった火事を報告する必要があるのかしら?
そう思ったのはイリスだけではない。気が短い第二王子のアルフレードが、じゃあなにが大変なんだ、と警備隊隊長に尋ねた。
「騒ぎがおさまらないんです。その……我々が消火活動を始める前に、建物内にいた人々を無傷で救った者がいまして。その者を讃える騒ぎが終わらず、街が混乱状態で……」
「……建物内にいた人々を、一人で救った者がいたのかい?」
「はい。なんらかの固有スキルによるものかと思われます」
なるほど、とレオーネは頷いた。
火事が起きた時に、警備隊が駆けつけるよりも先にみんなを一人で救ってしまう。
確かにそんな人がいたら、確実に騒ぎになるわね。
「それで、誰なんだ? そんなに優れたスキルを持っている人物のことなら、国でも把握しているはずだろう?」
「それが、データがないんです。とりあえず彼女を宮殿へ連れてこようとしたのですが……」
彼女、という言葉に引っかかったのはイリスだけではない。
無意識のうちに、ここにいた全員がその人物を男性だと思い込んでいたのだ。
「まさか、拒まれたのか? 手荒な真似をしたわけじゃないだろう?」
「はい。民を救ってくださった方ですし、民衆の目もありますから、こちらとしても手荒な真似はできません。ですので丁寧に頼んだのですが……」
そこまで言うと、警備隊隊長はいきなり視線をレオーネからイリスへ移した。
こんな風に彼に見られるのは初めてだ。
いつもはわたくしのことなんて、全然見ないくせに。
「自分はイリス様の物なので、イリス様を通じて命令してください。……と、彼女……メーロ殿はおっしゃったのです」
隊長の言葉を聞いて、さすがのイリスも冷静ではいられなかった。
とはいえ、兄妹たちの前で取り乱すわけにはいかない。
確かにメーロのスキルを応用すれば、建物内から人間だけを助けることは可能だわ。
だけどまさか、メーロがそんなことをしていたなんて……!
「とりあえず、わたくしをメーロのところへ連れて行ってもらえないかしら」
まずはメーロに直接、状況を確認しないと。
それにしても、ちょっと厄介なことになったわね。お兄様たちも、メーロに興味を持っちゃうかもしれないわ。
今後のことを考えると溜息が出そうになる。
けれどそれ以上に、頬が緩んでしまうのをとめられない。
メーロが……わたくしのメーロが、火事で困っている人を助けたなんて!
その事実が誇らしくて嬉しくて、すぐにでもメーロを抱き締めたくなった。
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