第8話 猫の過ち
比較的何でも許してくれる晴明にも、いくつかの「やってはいけないこと」が存在する。
まず一つ目は、晴明がいない時に外出すること。
そもそも晴明がいなければ、私はこの鎖を外すことができないので、このルールを破ることは不可能。
というか外出することは許されているので、破る気がない。
二つ目は、晴明にたいして「嫌い」と言うこと。
一度言ってしまったことがあり、そのあと取り乱した晴明が自殺しようとしたため、この言葉は封印された。
別に嫌いじゃないのに言ってしまったことは本当に良くなかったし、もしかしたら自分を否定されるような言葉を家族に言われていたのかもしれない。
だからこれは絶対に破れない。
そして三つ目が、晴明が風呂を出た後は、晴明を見てはいけないということ。
何だその鶴の恩返しみたいな条件は……と思ったことは置いておいて。
私はこのルールを今回破る……!!
やってはいけないことの一つを破ってしまう……。なんて最悪! なんて野蛮!
だが人間のルールなど知ったことではないのが、猫である。
晴明には悪いが、私の好奇心の犠牲になっていただこう……。
いやもちろん猫として破るわけだが。
晴明はいつも、風呂に入るときは私に声をかけ「呼ぶまで出て来ちゃダメだよ」と言って入りにいく。
貴重な監禁要素(口約束)なので、私は大人しく被害者のようにルールを健気に守っていた。
——だが、人間の言葉に拘束力などありはしない!!
それが猫だ。
猫なら許される。
猫を崇めよ。
悪どい笑みを浮かべながらケタケタ笑っていると、晴明が風呂から出てくる音がした。
さぁ、今こそ私の俊足を見せるとき!!
猫のように早く駆け抜けろ!!
全裸だったらごめんなさい!!
「晴明!!! 遊んでよ!!」
「……っ、来るなっ!!」
晴明の強い言葉に、思わず足を止める。
「え……」
「……っ!!」
私はそのとき初めて、晴明の上裸と素顔を見た。
——火傷跡だ。
火傷跡が至る所に残されていた。
顔は左頬が赤く爛れていて、他の箇所には、まばらに火傷跡が見られた。
両親は火事で亡くなったと言っていた。
晴明はいつも本気で笑うとき、左側が攣っていた。
家にいるときはいつも、首元まである服を着ていた。
風呂から出たあと、化粧か何かでいつも隠していたのだろう。
私に見られないように。
私の頭の中には、晴明の傷ついた顔が焼き付いていた。
今にも泣き出しそうな、叫び出しそうな表情だった。でもそれをせず、晴明は私に背を向けて走って行ってしまった。
——追いかけないと。
追いかけて謝らないと。
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